随筆:「経済上でのエントロピー」

by ご近所のきよきよ


 
 情報科学を目指すと、やはりエントロピーというものに興味を持ちます。シャノンの情報理論ですね。
エントロピー S=p(x1)log(p(x1))+p(x2)log(p(x2)+・・・
ここで、p(x)は状態xの起きる確率。
 エントロピーとは状態の単位なのですね。ほら、熱力学の有名な公式
T=ΔQ/ΔS
ここで、Qはエネルギーで、単位状態当たりのエネルギー量が平衡状態の温度Tであるという意味です。これ、等分配の法則といいます。
ナッシュ博士はゲーム理論で、利己的な競争者の社会が平衡状態にあると数学的に示しました(アダムスミスの経済論と同じ結果がでたのですが、詳しい数式は知りません)。これって、確率過程のマルコフ過程にも通じますね。公平な時に等分配の法則が成り立つのです。
 
経済では、このエントロピーってどんな風に定義できるでしょうか。ものの個数とか、機能の数といった状態ではないですね。エネルギーはお金であるとして、温度とエントロピーをどう考えたら良いかわからないわけです。例えば、自動車1台と鉛筆1本を等かな状態とはできませんよね。数学的には同じ1か0かの状態でありますが。
そこで、ものには仮想的な状態というものがあり、その状態に割り当てられるお金(エネルギー)の単価を温度Tとしましょう。ま、ここは恣意的なのです。
従って、T=Q/Sなのです。
 
いっぽうで、ものの交換は等価交換です。同じ金額で交換される。自動車N1台と鉛筆N2本で校勘したとすると、
N1*Q1=N2*Q2・・・・・(1)
です。
  等分配の法則から、
T=Q1/S1=Q2/S2・・・・・(2)
(1)と(2)から、
S1/S2=Q1/Q2=N2/N1
と、相対的にエントロピーが定義できました。経済上の状態とは、相対的なものなのです。
 
等分配の法則から、状態を増やすとエントロピー単位は下がっていきますから、エネルギーを増やさないと、温度が下がっていきます。競争的な作業とは、この状態を増やし、自分は状態数を増やそうという戦略です。エネルギー量を増加させない。このため、頑張らない人は低温度に低エネルギーで耐えなくてはならないというわけで、勝者は敗者があっての受益者であるということです。頑張るのは、競争的でなくて、エネルギーを増やす方に持って行きたいものです。
 
で、情報理論の本家ではエントロピーとエネルギーとがありますが、温度に相当するものは無いようです。エネルギーは計算機の回路のゲートをオン/オフするのにエネルギーを使いますから、エントロピーの移行に伴いエネルギーが必要なことは合点いくのですが、つまりエントロピーを減少、維持するのにはエネルギーが必要ということは分かるのですが、温度に相当するものが無い。等価交換の規則が無いからです。学生の頃考えていて、ついに熱力学的な情報理論は打ち立てられませんでした。情報理論をゲーム理論に限定すると、ナッシュの平衡点の理論から、熱力学的な議論を展開できるとこの頃思っています。
 
 

おわり