考察:「思考空間4」

by 小山明雄



 パターンを検出する能力(センシビリティ)はそのパターンであることを示す意味記号が必要ですよね。生命の誕生からの歴史をみれば、意味記号を生命が保持している必要がなく、突然変異で獲得すればいいことだと、想像がつきますが、ここは公理として、「あるパターンに対してセンシビリティを持つのは、意味記号を人工知能が持っていること」ということを認めることにします。信濃プロジェクトではこの意味記号をオントロジーと呼んでいます。それは認知科学を参考にしてのことです。認知科学では、猫という単語の意味を、(+life,+animal)なんて表現していたように記憶しています。

 YAMATOのオントロジーは単語があって、その概念の違いでツリー構造で単語体系を構築していきます。認知科学の方向とは違うようですが、YAMATOで異なる概念であると判定した理由を意味記号で表現すれば、その単語体系は認知科学の方向のオントロジーに簡単なアルゴリズムで変換できることが分かります。逆も簡単に変換できます。ということで、両方のオントロジー理論は双対の関係にあるということが言えます。パターン発見とかデータマイニングとかの学習理論、オントロジーの考え方の多様さ・・・そういうものを理論的に整理していくと、「オートマトンと言語理論」みたいな理論体系が構築できるかも知れませんね。


 思考空間を空間とその中のオブジェクトとオブジェクトの関係として捉えてみます。空間は時間と距離空間からなりますが、時間については、入力シーケンスに対する出力シーケンスの実現値ということで把握すれば、距離空間のみを扱えるシステムでカバーできます。4次元システムを想像するのは抽象的だし、次元が1つ下がればそれだけシステムの構築が楽になりますので、ここは時間軸のある4次元システムを想定するのは放棄しましょう。

 オブジェクトは、属性と運動(自己の運動と他者への働きかけ)とスケルトンからなります。スケルトンは点とか線とか、面とか立体ですね。それだけの抽象物表現です。これらはオントロジー記号(意味記号)の塊なわけです。センサーもアクチュエータもこのオブジェクトに含まれます。オントロジーとその値からなりますし、視覚では解析結果としてのオブジェクトはセンサであると同時にもはや完全なオブジェクトでもあるわけです。

 オブジェクト間の関係は、入力と出力の対で、変換テーブルとか対応テーブルです。骨格の接続具合センサーのセットから骨格の配置を知るとか、センサーの値から骨格の配置を制御するアクチュエータの制御値を得るとかにこのようなテーブルが必要になります。



 これらのことを前提として、思考空間を考えて行ってみたいと思います。思考はどう展開されていくか、制御されていくか。問われていくのはそんなことです。基本は、連想と連想結果の検証・・・理由づけ、そしてシミュレーションではないでしょうか。ここを議論していきたいと思います。

 物体を回転することを考えてみます。イメージではある支点を中心に回転していく物体です。それが何か棒にあたる。物体が金属のように固いものであれば、棒にあたり停止しまう。糸のように柔らかいものであれば、変形します。思考空間は当たり判定を行うし、物体の属性を自在に変更し、イメージを変化させることができなくてはいけません。金属がものにあたったときのイメージとか、糸がものにあたったときのイメージを制約条件のもとに参照できるようになっている必要があるということです。そのために、オントロジー記号というものが重要になるのです。オントロジー記号で具体イメージ(この場合、糸とか金属とかの属性)を連想処理して、知識ベースから取り出し、もとのイメージのオブジェクトに合成して変形処理していく。オブジェクトを選択し、その時の環境(制約条件)の入力シーケンスが決まれば、知識ベースの値によって、オブジェクトは変形していくことになります。それで、シミュレーションができるのです。これで、金属を回転したらどうなるか、糸を回転したらどうなるかを予測できる思考空間が実現できることが言えました。

 ある状況が可能かどうかというような、数学的問題はどうでしょう。リーズニング問題ですね。これは目標が与えられ、それに向かうパスを得るという問題です。これには、連想が重要な技術になるでしょう。文脈に合致する、あらゆる可能性・・・制約条件を連想するのです。可能性とかどんな属性をどう動かすかとか、オブジェクト間の関係はどうなっているか・・・どうなっているべきかということを、知識ベースをくまなく検索して、可能性のあることを全部あげることです。無論、それは時間的制約のもと、重要なことを選択してあげていくということになります。それは文脈から判断することです。また、過去に問題解決に使った知識を優先的に利用していくというような方略もあるでしょう。とにかく、原点から目標点までのパスを探すという問題に帰着して解いていくことです。パスの接続はシミュレーションによって検証していくことになって、リーズニングは実現できることになります。



 思考空間に現れる情報は、前には次のものとしました。

(1) センサー入力群(プリミティブ画像解析結果とかプリミティブ音声認識結果とかも含みます)

(2) アクチュエータ出力群

(3) 身体部品の配置、動き

(4) 他者身体部品の配置、動き(ミラーニューロン系)

(5) 入力値を出力値に変換する情報(小脳系)

(6) 動き、配置の変化(意志系)


 これに、重力関係の情報が必要なことが分かりました。基準を常に地球座標に置く必要があるからです。また、立って、歩いて、走ってといった行為について、重心を支える身体部分の管理は基本的に重要です。


 センサー入力もアクチュエータ出力も、論理的には身体部品の配置と動きで把握されます。温度も、体のどの部分が温かいのかといった、身体部品の属性として捉えられます。センサー意味記号と値は身体部品の属性として表現されるように、変換が必要なのです。関節のセンサの強さは、2つの身体部品のなす角度に変換して利用できるようになるのです。小脳系の働きが重要になります。その変換後、重力系で身体の基本的な座標軸が定められていますから、身体部品全体の配置と運動が、この座標系に表現されます。そうして、思考空間のさまざまなプロセスで利用できるようになります。行動の発現もこのプロセスの一つで、これから部品個々の関係・・・2つの身体部品のなす角度の変化として身体の運動を落とし込み、アクチュエータを制御する出力情報を得ます。


 他者を認識するのも、自分の身体の状況とセンサー、アクチュエータの情報の関係から推論していくことになります。自分の身体を他者の視点から見ることは、イメージとして身体を捉えるプロセスがあれば、画像処理技術の問題になります。パターンマッチングは簡単な抽象的なオブジェクトを扱うので複雑な曖昧性を処理する必要はありません。


 ロボットに竹馬に乗らせるというタスクでも、重力の支持点の管理を基本として考えて、身体部品、竹馬とかとセンサー群の意味記号と値の対応を学習する問題に帰着できますので、一般的なアルゴリズムを構築できるでしょう。




おわり