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<超実験的推理小説>
一般人! 高見コウスケ



最終回「殺人事件発生! 泣くに泣けぬ小指の痛み」

 コウスケがその事件をはじめに知ったのは居間のTVからであった。

・市内の県営住宅で殺人事件が発生
・殺されたのは独身の男性(26)
・殺害されたと思われる場所は自宅の寝室で、 首(頚動脈のあたり)と腹部を刃物で刺され、布団の上に仰向けに倒れていた。
・発見したのは恋人の女性。
・財布から札を抜かれた形跡があり、警察は強盗殺人事件として捜査をしている。

 これがテレビのニュースから知り得るその事件の全てだった。

 腹をパジャマの上からごしごしと掻きながらテーブルの上のコーヒーカップにミルクをちょっとたらすと、コウスケはそれをかき混ぜながら カップを口にあてた。

「なにか引っ掛かる事件だな……」

 コウスケはブラウン管の中の事件に対し、言い知れぬ違和感を抱いていた。そして、その違和感はまだ眠気が残る彼の頭の中に カフェインが染み渡るころ、確信めいたものを彼に与えていた。

 コウスケは、やおら事件について推理を始めた。

 コーヒーをちょっとずつ啜りながら、目の玉は天井を見つめている――これが考え事をするときのコウスケのポーズである。

 しばらくすると彼の鋭敏な頭脳はひとつの答えを彼に提示した。

「なるほど……そういうことか」

 そうつぶやいた彼の顔には、難しいなぞなぞを解いた小学生のような笑みが滲んでいた。

「これは物取りの犯行なんかじゃない! 犯人は恋人だ!」

 ピンポーン……。

 コウスケが確信すると同時に、テレビにはニュース速報を伝えるのテロップが流れ出した。

<ニュース速報>
 市内の県営住宅で女性が刺された殺人事件の犯人逮捕。犯人は同じ市内に住む 黒田権三郎 容疑者(55)。 警察の調べに対し容疑者は「仕事を首になり、金がなくなり困って泥棒に入った。殺すつもりはなかった」と供述。警察は事実確認 を急いでいる。

 コウスケはコーヒーを口に含むと、ブラウン管を見つめたまま「なるほどね……」とつぶやいた。

 高見コウスケ(36)独身。彼はただの一般人である。


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