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第37回「安土桃山時代からの脈流」

 伝統の技をたずねて。37回目を迎えました今回は、今を遡ること400年以上も前。安土桃山時代からの技を現代に引き継いだ、石川百衛門さんを訪ねて参りたいと思います。


*百衛門さんがなさっている仕事の都合上、インタビューを行った時間と場所の表記は控えさせていただきます。

 ――百衛門さんがこのお仕事、つまり盗賊をはじめられたのは何歳からですか?
 そうですね、家の父親の手伝いを始めたのが小学校の3年くらいだったかな。まぁ、私の家はご承知の通り昔ながらの物取り一家ですから、活動は主に夜なんですよ。その当時はよく学校に遅刻して、担任からげんこつを貰ったりしてましたよ(笑)。ひとり立ちは15になってからですね。足が震えて、塀から滑り落ちちゃったのを今でも憶えていますよ。

 ――仕事をする際の格好は今でも変わらないのですか?
 ええ。みなさんがご存知のあの格好です。手拭でほっかむりをして、肌シャツに股引き、お腹を冷やさないように腹巻もきちんとします。

 ――盗んだものを包むのは……。
 もちろん唐草模様の風呂敷です。

 ――なるほど。しかし、そこまできちんと従来の物取りスタイルを維持なさっていると、世間に知れ渡っているだけにやり難くはありませんか?
 確かにやり難いですね。町を歩いているだけで「泥棒だ!」なんて指をさされることも間々ありますよ。

 ――現代の主流である、朝や昼間に活動時間を変えようとは思いませんか?
 頭をよぎることはあります。留守の家を狙った方が仕事は簡単ですからね。でもそれじゃ、ダメなんですよね。そこにドラマはないんですよ。

 ――なるほど。ドラマに出てくるような(またはコント)泥棒でなくては意味がないと。
 いいえ違います! ドラマに出てくるような(またはコント)ではなくて、夜中に盗みを行うことにドラマが生まれるのです。

 ――なんだかわかったような、わかんないような気がしますが、今日は貴重なお時間を我々のインタビューに割いていただき真にありがとうございました。
 こちらこそ。


 頑なにそのスタイルを守りつづける石川百衛門さん。その姿は伝統という大きな時間に縛られたものなのではなく、不変という時間の概念を超越したスタイルなのではないでしょうか。これからも変わることなくドラマに出てくるような(またはコント)その姿を残して行ってほしいものです。
 さて、次回の「伝統の技をたずねて」は舞台をアフリカに移しまして、「自然の曲線をいかす―ペニスケース職人をたずねて―」と題してお送りしていきたいと思います。どうぞご期待ください。

*この放送を収録した3日後。残念なことに石川百衛門さんは警察に御用となってしまいました。この場を借りて、お悔やみを申し上げます。チーン。


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