当院では、平成11年の開院と同時に電子カルテを導入しています。

 当院で使用している電子カルテは、BMLの関連会社であるメリッツが開発したMedical Stationです。導入した当時、このカルテを使うのは当院が全国で2番目ということで、少し不安を抱えてのスタートでしたが、今では診療に欠かせないものとなっております。

 当院での使用経験をもとに、以下に電子カルテの〈メリット〉〈デメリット〉〈今後の展望〉についてまとめてみました。


《当院での電子カルテの運用》
 当院では受付にサーバー(親のパソコン)を置き、これと診察室・内視鏡室・レントゲン室・処置室・院長室のパソコンをLAN(配線)でつなぎ、使用できる設計になっております。パソコンは現在6台使用しています。
 新患を受け付けで登録すると同時に、診察室の画面に患者カルテが出ます。紙カルテのようにカルテを作り、それを診察室に運ぶ手間は全く必要ありません。そして診察室でドクターが所見 処置 処方等を入力すると、受付ではボタンひとつで、会計計算、処方箋・領収書の発行が出来ます。これにより転記によるミスがなく、時間短縮が可能です。

《なぜ電子カルテを導入したか》

@読みやすさ
 私が電子カルテの導入を決めた一番の理由は、今まで自分が書いたカルテに対する反省からでした。「略語や英語交じりの、メモ書き程度のカルテ」で、時には、自分で書いたカルテが、自分ですら読めないことが有りました。
 今後、カルテの開示がすすみ、カルテは医師だけの所有物ではなく患者さんとの共有物になりつつある時代に、「このカルテではダメだ」という気持ちが、電子カルテ導入の出発点となりました。

Aカルテの保管スペースが不要
 当初は、法的な問題と万が一のトラブルに備えてカルテの内容を紙に印刷していましたが、現在はバックアップデータを保管しています。これにより診療スペースを有効に使うことが可能です。

Bカルテ探しや診察室へ運ぶ手間が不要
 何十年前のカルテでも診察室のパソコンから簡単にカルテを呼び出せます。 

C検査データをカルテに貼る手間が不要
 外注した検査データも、電話回線またはフロッピーにより自動的にカルテに取込まれ、時系列表示やグラフにして分析することが可能です。 

D必要なデータや画像がカルテに取込め、即、画面に呼び出せる
 内視鏡やレントゲンの画像は、MOやデジカメ、などで取込めます。また他院からの紹介状なども、スキャナーで画像として取込んでいます。

E記入のしやすさ
 忙しい外来診療においてSOAP(患者さんの訴え、所見、診断、計画)方式でカルテ記入をすることは、時間的になかなか困難です。しかし電子カルテを使用すると、効率よく記入するツールや、テンプレート(前もって必要な事項を記入したページ)を画面に貼り付けることにより、比較的短時間でSOAP形式でのカルテ記入が可能になります。これによって診療により長く時間をかけることができます。

 これらは、今後電子カルテが普及するにあたり、大切なポイントとなるでしょう。


《電子カルテの問題点》
 このようにいろいろな利点のある電子カルテですが、現時点では、まだいろいろな問題点も抱えています。

@サポート体制が必要
 電子カルテは、紙カルテと異なり、故障ということがあります。故障には機械的な故障と、ソフトの故障があり、ともに診療中に起これば診察はストップしてしまいます。
 機械的な故障は、落雷や火災などでもなければ、それほどは起こりません。しかしソフト面でのトラブルは、小さなものまで含めればかなりの頻度で起こります。時には、全く動かないことも起こりうるのです。当院では、開院してから今までに2度ありました。この時は電話回線を通じて、ソフトの不具合を修復してもらい、その間、約30分は、別にバックアップを取っているノートパソコンを使用して診察しました。 やはり、パソコンにそれほど詳しくないドクターの場合は、非常時のサポート体制は必ず必要と思われます。

Aインターネットとの接続は慎重に
 「医療とIT」といえば必ずインターネットがありますが、実はこのインターネットと電子カルテの組み合わせが問題なのです。インターネットを介して、コンピュータウイルスが電子カルテシステムに入り込む可能性があります。そして患者データの盗み出しや、データの消去、いたずらでの書き換えが行われる可能性があるのです。紙カルテでは起こりえないことが、電子カルテでは容易に起こりえます。ですから、今は、電子カルテのパソコンからインターネットに接続するのは極力避けています。

Bカルテの真正性
 真正性とは、耳慣れない言葉ですが、「カルテが改ざんされていないことの証明」です。
毎日、CD-ROMに記録すれば、十分かと考えていましたが、新しいCD−ROMと入れ替えてしまえば改ざんは可能なのです。私が今使用しているシステムも、書き換えた場合、前の内容も記録に残ることになっています。しかし、コンピュータに詳しい人なら、これも消すことは可能です。紙カルテならインクの状態や書体により改ざんを見破れますが、電子カルテは、なかなか見破れません。今、厚生労働省も、この点を具体的には指導していませんが、いずれ問題となるでしょう。


《今後の展望》
このように 現時点では、いろいろな問題を抱えている電子カルテですが、その利点は計り知れないものがあります。今後、新しく開業する先生を中心に、急速に普及し、電子カルテが標準的なカルテになる日も近いと思われます。

           三井クリニック  三井 愼一

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