胃内視鏡検査(胃カメラ)は、正式には「上部消化管内視鏡」と言い、咽頭から食道、胃、十二指腸下行脚までの範囲を観察します。
当院では平成11年の開院時より、(1)苦しくなく (2)正確で (3)安全な 胃内視鏡検査を実施しています。
 今回は「苦しくない胃内視鏡」についてご説明します。
ポイントは(1)
適切な前投薬と(2)熟達した挿入技術です。内視鏡を専門とする医師であれば、「熟達した挿入技術」は当然と考えます。一番問題となるのは「適切な前投薬」です。「大病院で、専門医の胃内視鏡検査を受けたが、検査はかなり苦しかった。」という話を患者さんから聞くことがあります。これは前投薬に問題があると思われます。
 苦痛のない胃内視鏡検査には、この前投薬が一番大切です。一般の人にもわかり易いように以下の4段階に分けて説明しましょう。
 レベル1  前投薬は咽頭麻酔のみ
 咽頭(ノド)の麻酔は、ゼリー状の麻酔薬(キシロカインビスカス)をスプーンなどで、ノドに流し込み、これを飲み込まずに5〜15分間、ノドに留めておく方法が一般的です。この麻酔自身、時間が長く、患者さんから嫌われることも多いのです。うまく出来ないと、肝心のノドの奥はしびれずに、口の中がしびれてしまいます。
 当院ではこのゼリー状の麻酔薬は使用せずに、スプレー式の麻酔薬(キシロカインポンプスプレー)のみを使用しています。口を開けていただき、シュッ、シュッと3〜5回ノドに薬を吹きかけるだけです。30秒〜1分で終わります。このノドの麻酔だけでも胃内視鏡は可能ですが、妊婦さんとか、検査終了後、すぐ帰りたい人など、特別な場合だけです。
 レベル2 咽頭麻酔の他に軽度の鎮静剤(麻酔薬ではありません)を使用
 具体的には(1)セルシン(ホリゾン)3〜5mgの静脈注射 (2)オピスタン35mgの静脈注射 (3)サイレース0.2〜0.4mgの静脈注射などを使用します。この程度では少し頭がフワフワしますが、意識は、ほぼ正常に保たれ、検査中のことはほとんど覚えています。一般的に大病院などで行われている前投薬はこのレベルが多いのです。ただし、このレベルでは、ノドの敏感な患者さんは検査を苦痛と感じ、ゲーゲーすることがあります。
● レベル3 咽頭麻酔の他にやや多めの鎮静剤(麻酔薬ではありません)を使用

 具体的には(1)セルシン(ホリゾン)5〜10mgの静脈注射 (2)サイレース0.6〜1.0mgの静脈注射などを使用します。ただし、これらの鎮静剤の効き具合は、個人によりかなり差がありますので、患者さんと会話しながら、少しずつ注射をしていきます。このレベルでは患者さんは、医者と会話が出来、「口を開けて下さい。」とか「飲み込んで下さい。」などの指示にしたがってくれますが、検査中の記憶はほとんどありません。ですから、「検査が終わりましたよ」と言うと、「エッ、もう終わったのですか?」とか、なかには「これから検査ですか?」と言われる患者さんもいらっしゃいます。
 当院では、このレベルにはサイレース0.6〜1.0mg程度使用しています。以前に胃内視鏡検査を受け、苦しい経験をされた方や、ノドの反射の強い方は、このレベルの前投薬をお勧めします。ただし検査後は、約2時間ほど、ベッドで休む必要があります。

● レベル4 咽頭麻酔の他にかなり多めの鎮静剤(麻酔薬ではありません)を使用

 完全に深い睡眠に入り、医師と患者さんは一切会話はできません。このレベルでは、呼吸抑制が起きる可能性が高くなります。また目が覚めるまでに長時間かかりますので、一般的な胃内視鏡検査では、このレベルまでの前投薬は必要ないと思われます。

 以上、胃内視鏡検査の前投薬にはいくつかのレベルがあります。当院では、検査を受ける前に本人の希望を聞き、前投薬のレベルを決めるようにしています。
 約80%の方はレベル3を希望します。このレベルが一番楽に検査が受けられるかと思われます。また、これから「苦しくない内視鏡検査」をめざす医師も、レベル3の前投薬を十分に習得していただきたいと思います。苦しい検査は患者さんを必要な検査から遠ざけ、早期発見、早期治療の道を閉ざし、結果的には患者さんの命を縮めることになるからです。

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《苦しくない内視鏡検査》《苦しくない胃カメラ》に必要な前投薬(検査の前に使う薬)のお話です