オトナの夏休み
「アクアリウム カフェ展 2020」
〜今年の8月も毎日が水景日和〜

展示作品写真館「水景いろいろ」

「魅せられて」
須賀光一
「枯れ木に華」
西澤 修
「みずぎわの小さな命」
小笹 亮
「水想 (suisou)
kao
「エンドラーズ ラグナデパトス2004 フレームテール」
高橋一彰
「イモリ何尾?」
宮崎 聡
「沢水槽」
坂口聖英
「メメル 〜 c a f e 〜」
Rei
「世界初?! 緑単色の金魚作出計画」
マスター
短信・緑色の金魚 その一
 長年「青いバラ」が「不可能・ありえないもの」の代名詞だったように、数百年の育種の歴史を持つ金魚の世界でも、緑色は作り出せない色のひとつでした。
 ところが、2017年に、埼玉県の金魚愛好家が、数十年もの年月をかけて緑色の金魚の作出に成功したというニュースが、観賞魚界を駆け巡りました。確かにその金魚には、体の一部に美しい緑色の発色がありましたが、全身が緑単色というものではありませんでした。
 そこで、私も、以前から機会があれば、緑色の金魚を作ってみたいと思っていたこともあって、全身が緑単色の金魚の作出に挑戦してみることにしました。

 金魚が持っている色素の種類は既に知られているので、金魚における既知の色彩表現が、それぞれの色素がどのように組合わさって、その色彩を表現しているのかということを、パソコン上でシュミレーションしてみました。すると、色素の発現と鱗の構造に関わる複数の既知の遺伝子を組み合わせれば、緑色に見える個体を作れるかもしれないという結論に達しました。
 幸い、交配に必要な遺伝子を持つ2タイプの金魚が手もとにいて、それも、片方のタイプが雌でもう片方のタイプが雄だったので、それらを交配すれば、理論的に孫の世代で、目標とする個体が生まれる可能性がありました。そして、2018年の夏にその雌雄を交配して雑種第一代目(F
1)を作出し、今年(2020年)の春に雑種第一代目の中から雌雄一個体ずつを選んで交配して、雑種第二代目(F2)を作出しました。

 私の理論では、雑種第二代目(F
2)には、極めて低い確率ではありますが、濃い緑色と淡い緑色の2タイプが生まれてくるはずでした。しかし、実際に得られたのは濃い緑色の方だけで、どうやら淡い緑色を期待した遺伝子の組み合わせでは、セピア色的な色調になってしまうらしく、緑色を発色させることは難しいようです。
 今回は、濃い緑色になってくれた方も、淡い緑色になってくれなかった方も、両方共展示してあります。

 濃い緑色の個体の方は、ご来店いただいて、実際に生きた個体をご覧いただければ一目瞭然ですが、照明のない状態では「ほんの少し緑色がかったフナのような色」にしか見えないかもしれませんが、昼光色LED電球の照明下では「日本茶の煎茶葉のような色」に見え、今回の展示で使用しているアクアリウム用の
高演色LED照明下では「それなりの緑色」に見えます。

 実は、今回のお披露目をもって、育種遺伝屋としての私の「最後の作品」にするつもりだったのですが、どうも中途半端な結果には釈然としない自分がいます。
 濃い緑色になった個体や淡い緑色にならなかった個体が、本当に想定どおりの遺伝子構成になっているのかを確かめる交配(検定交配)をおこなわずにはいられなくなってしまったし、もっと緑色に見える個体の数を増やして、緑色っぽさの変異幅を見てみたくなってしまったので、なんとか、もう少し、あと5年は生き延びなければならないようです(笑) 2020.8.7
短信・緑色の金魚 その二
 実は、この「緑単色の金魚作出計画」、想定外なことばかり起こります。

 2018年の夏に生まれた雑種第一代目(F
1)の個体を選別して、理想の体型の7個体とそれに準じる13個体を種親として残しました。特に理想の7個体は過保護に育てて、2019年中には繁殖させる計画でした。
 しかし、いざ繁殖させようと環境を調整したところ、全ての個体に雄の特徴(二次性徴)である「追い星」が現れ、とどのつまり7個体全てが雄であることが判明して、繁殖は不可能になってしまいました。慌てて、準理想の13個体を過保護飼育に転向して、翌2020年初春の繁殖に備えることにしました。

 そして、2020年つまり今年になって間もなくの頃、再び繁殖させるための環境調整をしたところ、一匹、また一匹と追い星が現れ始め、嫌な予感が胸を過るはめになってしまいました。
 その嫌な予感は的中して、またしても13個体全てに追い星が現れて、互いに互いを追いかけまわす繁殖行動までするようになってしまいました。結局、種親として残した20個体が全て雄である以上、繁殖は不可能ですから、あらためて一からやり直すしかありません。

 幸い、最初の交配に用いた雄親個体は元気でしたし、雌親個体は死んでしまっていましたが、全く同じ遺伝子構成の娘を、忘れ形見に残してくれていたので、それらを交配して、あらためて雑種第一代目(F
1)を作出しました。
 2018年に作出した20個体ですが、特に理想の7個体の中から1個体、また準理想の13個体の中からも1個体、お気に入りを1個体ずつ選んで、あくまで観賞用として自室で飼育を続けていました。

 ある時、理想の個体が準理想の個体を追い回していることに気付きました。追い回している理想の個体には、はっきりと追い星が現れていましたが、追い回されている準理想の個体の方には、あるべきはずの追い星が現れておらず、むしろ成熟した雌の特徴(二次性徴)である、腹部が大きく膨らんでいました。
 ひょっとして…と思う間もなく、目の前で産卵が始まったのです。マジかぁ!まさに奇跡としか言い様のない瞬間でした。

 それが、最初の想定外の出来事だったのですが、今回の展示中、またしても想定外の展開になってきました。

 上記(2020.8.7記)の「濃い緑色の個体」に褪色現象が現れ、黄色になってきてしまいました。恥ずかしながら、この個体が「濃い緑色」の遺伝子構成だと思っていたのは、どうやら間違いだったようです。
 しかし、それとは正反対に、「淡い緑色」にならずに「セピア色」だった個体が、次第に緑色っぽくなってきました。
 先述のように、濃い緑色の方は「日本茶の煎茶葉のような色」を目標としましたが、淡い緑色の方は「伊右衛門(サントリーの緑茶飲料)」のような透明感のある緑色が目標で、むしろ淡い緑色の方が「本命」なので、今後の成長と発色に期待せずにはいられない今日この頃です。 2020.8.22