FT-50

 私が開局時に使用したのが「八重洲無線 FT−50 SSBトランシーバ」です。今から見ると何の変哲もない5Mhzハイフレシングルスーパータイプトランシーバですが、当時は最先端無線機というイメージでした。何しろ周りには59ラインを持っている局くらいしかおらず、2文字のOMがやっとFT-100やTS-500でQRVといった状態だったのです。7MhzをワッチしてもCW,AM,SSBがそれぞれ1/3ずつBand内を分け合っている感じの時代でしたので、SSBにQRVできる事自体が最先端でありました。精悍なブラックフェィスのパネルも現代のRigには無い訴求力が有ったと思います。 

 3.5〜28Mhzで公称10Wでしたが、ファイナルはTV球好きのYaesuだけあって「12BB14」x2という豪華さ。7Mhzで上手にチューニングを取ると50Wは軽く出てしまいました。よくあれでJARLの認定が通ったものだと思います。まぁ、のどかな時代だったという事でしょうか。ただし28Mhzではせいぜい5Wくらいしか出ませんでした。一度、意を決して中和を取り直して見ましたが状態は変化無し。 12BB14の高周波特性があまり良くなかったのかも知れません。



CQ誌1967年1月号
          
      
項目 性能
電波形式 SSB,AM,CW
周波数範囲 3.5-4,7.0-7.5,14.0-14.5,21.0-21.5,28-30Mc
定格入力 20W
搬送波抑圧比 40dB以上
側波帯抑圧比 40dB以上
不要輻射 40dB以上
通過帯域幅 300-2700c/s ±3dB以内
受信感度 CW,SSB 2μv S/N20dB以上
AM   10μv S/N20dB以上
選択度 ±2Kcで-40dB,±1.2Kcでー6dB
内部妨害信号 1μv以下
低周波出力 1W
電源 100V AC 50-60c/s送信 1.4A
             受信  1A
12V           送信 10A
12V           受信  6A
寸法 高153x横334x奥行262mm
重量 約10kg


 本体には7090KhzだかのHC6Uの水晶片が1個付いており、VXOで+−2Khzくらいは変化させて運用することができました。DC.DCコンバータも付いていた事からモービル機としての使用を意識した設計だったと思われます。7090以外で運用するには外部VFO「FV50B」が必要でした。このVFO、ダイアルメカはギアで構成され、バックラッシュもそれほど感じられないFBさでしたが、QRHが結構ありました。構成図の周波数関係を見て頂くとお判りだと思いますが、発振周波数は8Mhz台以上ですから無理もなかったかも知れません。回路は忘れてしまいましたが、2SCタイプのシリコントランジスタを使った3石構成くらいのものだったと思います。VFOがFET化されるのはもうちょっと後のことになります。
                                             
 


 実際の運用は7Mhzが80%、後は7MhzのDPに強引に乗せた21Mhzでしたので、それなりに使えた記憶があります。高1中2とはいえハイフレタイプ、少なくとも9R59などよりは余程FBでした。QRHがあると言っても当時のRigはみんな多かれ少なかれそんなものでしたし、感覚で言うと50Mhzのパナスカイマーク6あたりの方が余程ひどかったと思います。そのころ未だ主流だったA3局にはA3Hで対応出来ましたし(ただしPowerは4W程度)、初級局のトランシーバとしては(当時としては)十分の性能で有ったと思います。

 結局、FT-50は都合4年間くらい使用され、次のFT-401へとバトンタッチされることになったのですが、この間に400局以上とのQSOを楽しませて呉れました。昨今、中古のFT-50が30万円以上の高値で取引されたりしているのを見ると(当時の正価は58,000円)感慨深いものがありますが、さすがに現在において使おうとは思いません。やはり、その時代にはその時代に似合った機械があると言うのが、かつてユーザーだった男の偽らざる気持ちです。


 WE300B

 300Bと言えば今でこそ中国球の氾濫などでポピュラーになってしまいましたが、1970〜80年代にはそれこそ幻の銘球と言われて居りました。特にウエスタンエレクトリック社製と言えば尚更で、そのご尊顔は故浅野勇先生の製作記事などでお目に掛かるのがせいぜいでした。そんなある日、いつもお世話になっているオーディオ販売店のTさんから「そろそろ球アンプを卒業して半導体アンプに切り替えたいので、自分の未組み立てのWE300Bアンプキットを引き取って欲しい」とのお話しが有ったのです。そのころの自分といえば、LUX KITの「KMQ-80」を組み立てたばかりの頃で、「自分の様な若輩者が畏れ多くも神聖なWE300Bに関わってもよいのだろうか?」と悩んだのも確かですが、オーディオを趣味と志した者として一度はその流麗なガラスチューブのカーブに触れ、音を聴いてみたいという誘惑に抗しきれず、また聞けばこのキット自体はエルタス社のEL-12であり(WE#91タイプ)、使われているトランス類はマリック社製(松尾静弥さん製作で伊藤喜多男さんも使われた)。肝心の300Bはあの有名な秋葉原 ラジオデパート「太平洋」の親父さんが選別したペアチューブの上にCW表示の有る海軍用、それも「OLD]で有るとのこと。20万円という,当時の自分としては相当なお値段では有りましたが、ご好意に甘える事を決断しました。(^^ゞ

 いよいよ現品が我が家にやって来た日、憧れのウエスタンエレクトリック300B OLDとの初対面です。彼の貴公子は身の丈の2倍以上はあろうかと思われる白箱に、スチロール系の梱包布に大切に包まれて現れました。「さすが300B、登場の仕方も違うわい」。早速現物を拝観です。「うーむ」思わず唸ってしまいました。こんなに大きなST管はそれまで見た事がありません。ガラス材も上質そうで高貴な光を放っています。(^^ゞ球を持つ手が自然に震えて来ました。「これは良い音がしそうだぞ」。

 Amplifier回路はインターステージトランスを使ったECC82、2段増幅でシングル出力回路を採用したモノラル仕様、球ソケット類はホールドタイプのステアタイト製、カップリングコンデンサはオレンジドロップ、整流管は軍用の5Z3と気合いの入ったパーツ集めがされています。こんなに力を入れていた物を譲って頂いたTさんには本当に感謝の念が湧いて来ました。

S氏提供

                                                           
 それまでの様に一気呵成に作ってしまうのはあまりに勿体なく感じられたので、完成には3〜4ヶ月掛けた様に記憶しています。原回路は300Bのフィラメントが直流点火だったのですが、音を聴いてみたのと「DC点火にするとフィラメントが片減りする」という説が流布されていたので、私のEL-12では交流点火を採用することにしました。実際、交流ハムは取りきれるものでは有りませんでしたが、音の深みというか音楽性に関しては交流点火の方が勝っていたように思います。


 記憶によれば、完成したEL-12にはmarantzの#7K(日本マランツが創立何周年記念だかに出したプリアンプ#7のキット)と、エクスクルシーブの3401を接続して音を出してみました。初めて灯したときの、あの青いグローの色は(真空度が良好な時にでる、真空度が悪いとピンクの毒々しい色)いまだに目に焼き付いて忘れられません。音は中、高音の透明でいて深みのあるのが特徴的でした。「これがウエスタンエレクトリックの音か!」と暫し茫然自失、感激に酔いしれたのを昨日の事の様に想い出します。

 あれから何台か300Bのアンプを作りましたが、やはりウエスタンエレクトリック300B OLDが音的には一番だった様な気がします。此上は刻印の音も聴いてみたい気がしないでもありませんが、昨今の暴騰状態ではもう私如きに入手できる可能性は無いでしょう。ちなみにあの時の300Bは現在、伊藤信者の真空管大好き人間 S氏の処で余生を(?)送っています。私の処にもベルマークよりは旧いWE300B1ペアと274Bが現存していますので、定年にでもなったらもう一回、アンプ作りに挑戦して見ようかと密かに考えて居るところです。


 T2FD

 架設してから10年以上経つ3.5〜7Mhz用のトラップタイプINVが、雨や雪が降ると極端にSWRが上昇するようになりました。どうも状態から判断して(乾くとすぐ復旧)トラップかバランが絶縁不良を起こしている感じです。まぁ3.5や7Mhzはほとんど運用実績が無いので(今更国内のメンコ集めでも無かろうと(^_^;) )そのままでも良かったのですが、せっかく免許されている事でもあり、何かANTを探すことにしました。ある日オークションを眺めていると「T2FD 17,000円」というのが目に飛び込んで来ました。「ん?T2FD・・・昔何処かで聞いたような?」30年前のアンテナハンドブックを引っ張りだしてみると、有りました、「進行波型の全波用空中線」「1950年代に一時流行するも、その後あまり使用されず」とあります。

 「能書きを見るとかなりFBそうなのに何で廃れたんだろう?」。更にインターネットで検索を掛けると出てくる出てくる、曰く「使っても失望させられるアンテナ」、曰く「ダミーロード付きリード線アンテナ」・・・・。うーむ、あまり世上の評判は良くなさそうです。でも全長25mで1.9〜30Mhzまで対応というのは魅力です。昔廃れたのも1対9のバランやFBな特性の無誘導抵抗が用意できなかったせいらしいし、6年後には7Mhzが100Khz拡張されるという話もあります。また1.9や3.8Mhzも一応電波は出せそうだし・・・。この段階でオークションに応札することにしました。DPとYagiが目立つ7Mhz、毛色の変わったアンテナを使って見るのも一興ではないでしょうか?  

 結局、正価24,500円のところ17,000円で新品のT2FDをゲットできました。DP位なら自作出来るかもしれませんが、今回は耐久性とパーツの入手の関係から既製品を選択しました。アマチュア無線通信士の度合いが増えているなぁ。いや今のアクティビティでは通信士にもなれないSWLかな?(^^ゞ 耐入力は150W、全長25mですから、現在のINVを撤去して同一場所に設置すれば問題は無い筈です。早速、当無線局の空中線建設担当のJA0Q*A局に御相談すると「いいけど、現在腰痛なので治るまで待ってくれ」とのこと。どうもTS-510やTS-511などを複数台集めたりしているうちに、あまりの重量に腰を痛めたらしい・・・・かな。(^_^;)

 で、1ヶ月位も経った9月某日、同軸ケーブルはINVの物を流用することにした、エレメント交換工事が実施されました。下ろしたINVのバランは赤茶っぽく変色し10年の年月の長さを感じさせます。接点のアルミラグやエレメントも酸化して黒ずんでいるし、この位での交換は正解でしょう。ラーメン1杯で1日をご奉仕頂いたQ*A OMに感謝です。


周波数(Mhz) 1.9 3.5 3.8 18
SWR 1.2 1.2 1.2 1.2 1.1

 給電点15mのINVタイプT2FDの完成です。鋭角90度くらいで南方向を向いています。。各Bandの中心周波数でのSWR値は上表の通りです。ブロードバンドアンテナの名に恥じない値ですね。早速7Mhzをワッチしてみました。今までのINVに比較してBand内が靜かになった感じがします。ノイズレベルが2〜3dB落ちた(プリアンプを1段外したような)静けさです。「これは前評判通り耳の悪いアンテナだったかな?」 でも信号はそれなりに入感しています。折しもオールアジアンDXコンテスト電話部門の真っ最中でKH6やW7あたりが58〜9位で聞こえています。まさか届かないだろうと、まずオンフレでKH6を呼んでみたら一発でコールバックが・・・。続いてスプリットでW7を、これも一発で応答がありました。当局のようなベアフットにも満たないPowerでこんなに飛ぶとは、まぁ相手局も相当なビックガンなんでしょうが、畏るべしT2FDです。で、国内局を受信するとコンデションの変化に敏感な感じがします。時間と共にSのレベルがINVに比較し、早く落ちたり上がったりしているようです。またEU局はS2〜4で早朝や夕方入感するのですが、流石に呼んでも応答はありません。多分南に向けた鋭角のせいではないかと思います。18Mhzの3ELとの比較では、ちょうど入感していたV63での対比でYagi 59+に対して57、 S-Meterで3位の差が有りましたが問題なくQSOできました。ただし太平洋方面以外ではもうちょっと差が開くようです。1.9Mhzは1910Khzあたりで2や4の局が569位で入感していました。結構使えそうな雰囲気です。


 このアンテナのお陰で7MhzはDXBandだということを実感することができましたし、CWもそれなりにワッチ等をして楽しんで居ります。勿論FBな3〜5ELのビーム局などとは比較もできませんが、下手な、経年変化でマッチングのずれたようなDPなんぞよりは、よっぽどFBな感じです。考えてみれば進行波アンテナと言えば例のロンビックなどもその範疇ですし、間隔が狭いとはいえループアンテナの一種ですから、雑音に強いのもうなずけると言うものです。


 IC-R9000

 


 このたび、30年弱勤めた会社を追い出されることになりました。本来の予定ではあと十年ばかり余裕のある筈だったのですが、近頃のご時世ではそんな世迷い言は通用しないようです。まぁ完全失業者にされなかっただけでも感謝しないといけない時代かもしれませんね。未来の退職については自分なりに「定年後は壊れやすいと言われる某外車を乗り回し、時間に制約されない生活を思いっきりエンジョイしよう」などという夢も漠然と持っていたのですが、予定が早まってしまった現在、そんなのんきなことも言っておれません。

 それでも自分の気持ちに区切りを着けるために車は無理でも、「何かメモリアルな物を準備したい」と考えたのは勤労者として極めて自然な考え方ではないでしょうか?(^_^;) で、早速インターネットで検索開始。車の代わりが、いつの間にか受信機になってしまうのがいかにも自分らしい、と少し自嘲気味に選び出したのがICOM IC−R9000でありました。SP-600、51−S1と揃えてきましたが、ここらで上がりとして現代の受信機を用意してみるのも良かろうというわけです。(果たして本当に上がりとして最後の受信機になるかどうかは神のみぞ知るですね。Hi) 九州のハムショップイズミで、ちょうど1台中古品が有るとのことで込み込み¥296,000でゲットすることができました。気が付いたら我が家で一番高価な受信機ではありませんか!これならKWM-2Aでも十分買えたなぁ。

  IC-R9000は現在でも受注生産品としてつくられている(IC-R9000L)プロユースの受信機です。ただし設計が1980年代末のため、最新のDSP回路や同期検波回路などは付いていません。アナログ(PLLではありますが)受信機の最高峰機種と言えると思います。届いた受信機の梱包を開けてみると、お店の方の「上から極上の間くらい」という言葉に違わない逸品が現れました。ケースはIC-780用の流用です。それにしてもでかくて重い!本当に半導体受信機なんだろうか?それから「CRTが風邪を引いていたので表示部をLCDに換えました」との表現通りピカピカのLCDが付いています。これでIC-R9000Lとほとんど同じですね。でも問題もあり、説明書が無い!これは早速地元のショップを通してICOMからゲットしました。消費税込みで\5,250!高い!(^_^;)

 早速ANTとして昔50MHz用に使った、パンザマストのてっぺんまで張り殺し(?)になっている5DFBの心線を受信機に接続。約25m超のLWです。インターネットで海外日本語放送のプログラムを入手し同調を・・・・。「おぉ!BBCもラジオオーストラリアもドイチュ・ヴェレも日本語放送が無い??!!!」。そうです。自分が聴きたいと思っていた海外日本語放送のプログラムはほとんど終了してしまっていたのです。インターネットラジオの方が安く、確実な時代だというのをすっかり忘れておりました。それにしてもロマンの無い時代になったものです。やれやれ。

 それでも気を取り直し、ラジオジャパン、ラジオタイランド、イラン放送などをワッチしてみました。それぞれにメーター目盛り半分くらいでフェージングを伴いながら綺麗に聞こえます。今日はコンデションが良さそうです。でも、これでは比較も何も判りません。そこで、横にある HF機とで3.5MHzでの聴き比べをしてみることにしました。(^_^;) 3540KHzのいつもワッチさせていただいているOMたちのラグチューを両方で受信してみます。(ANTはDPと前述LW) これはダイナミックレンジの点で現HF機に軍配が上がります。Sメーターの振れはあまり変わりないのに音声の元気さが違います。R9000は静かに聴かせるタイプのようです。NotchやIF-Shiftは結構効きますが、これでDX(Hamでの)を追いかけろと言われたらちょっと役不足かなぁ。ICOMのHF機は未だ使った経験が有りませんが、これがICOM系の特徴なんでしょうか?約10年間の時代間隔の差なのかな?

 もちろん気に入ったところもあります。まずダイアルタッチ、これはステップ単位周波数によって動作が変化する優れもの。FastとSlowのSWでステップ周波数を指定してやると、それに合わせて亀の子動作からカチカチ音のするロータリーSW動作まで変幻自在です。また受信フィルタも3段階に切り替わりナローはCW受信にちょうど良く、15KHzのWideはBC帯AM放送が心地よく聞こえます。スペクトラムスコープもそれなりにFBですが、眼のちょっと遠くなった自分には、もう少し大きめなLCDが欲しいところですね。でも、お空の状態を目視しながら受信できるのは楽しいです。AGCはfast、Slow、offの三段階ですが、時定数はまぁまぁですね。時定数連続可変できれば言うことないんですが、無い物ねだりでしょうか。(^_^;)

 V,UHF帯については、あまり興味も適当なANTも無いので聴いておりません。そのうちディスコーンでも上げて航空無線でもワッチしてみましょうか。それにしても100Khz〜1999Mhzまでを連続カバーして、それなりの性能で使用できる受信機というのは大したものだと思いますし、持った者にある種の安心感と満足感を与えます。この受信機に関してはSP-600や51S-1の様な文化財的扱いではなく、シャック(無線室)に置いて紫煙の洗礼を浴びせつつ、BCL、Ham用サブ受信の実戦機として末永く使っていきたいと思っています。