生物多様性の危機
絶滅危惧TA類 絶滅危惧TB類 絶滅危惧U類 準絶滅危惧
ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの TA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの 絶滅の危険が増大している種 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
1.1度消えた種は2度と戻らない
 約3千万種とも言われる地球上の生物は、互いに結びついてバランスを保っている。そうした種の多様さや、それらが食べ物や薬といった人々の暮らしにもたらす恵みを、「生物多様性」と呼ぶ。
 1975年から2000年までの25年間に、年間平均4万種、実に13分間に1種の生物が絶滅してしまったとも言われ、今も世界中で多くの生物が、絶滅の危険に晒されている。
 生物の種が一度絶滅してしまえば、2度と蘇ることはない。
 人間の身勝手な活動のために、多くの種が失われる事があれば、地球上の生態系は大きく崩れ、最終的には人類の生存すら危うくなる。

●生物が絶滅する原因

  1. 森林の伐採や開発
  2. 農薬などの化学物質による汚染
  3. 乱獲・密猟
  4. 外来種による侵食
  5. 里山の放置
  6. など
2.絶滅種の発見
 すでに絶滅したと思われていた種が、偶然発見されることもある。
幻の魚「クニマス」を発見
 70年前に絶滅したはずの幻の魚「クニマス」が2010年、富士五湖の一つ西湖(さいこ)で発見された。
 「クニマス」は、サケ目サケ科に属する淡水魚で日本固有種。体長30cmほどに成長し、体色が全体的に黒っぽいことから「クロマス」とも呼ばれる。
 かつては秋田県の田沢湖が唯一の生息域だったが、水力発電用のダム建設に伴って水質が急速に酸性化、1940年代の初めに絶滅したとみられていた。
 クニマスの移植に関しては、山梨県の西湖および本栖湖(もとすこ)へ放流用の卵を運んだ記録があったが、その後の生息は確認されていなかった。
 発見のきっかけは、京都大学の中坊徹次教授が、タレント・イラストレーターで東京海洋大学客員准教授の「さかなクン」に「クニマス」のイラスト執筆を依頼したことによる。
 「さかなクン」は、イラストの参考のために日本全国から近縁種の「ヒメマス」を取り寄せたが、西湖から届いたものの中に「クニマス」に似た特徴をもつ個体があったため、中坊教授に標本を届けた。
 中坊教授の研究グループが、解剖や遺伝子解析を行なった結果、西湖の個体は「クニマス」であることが判明。根拠となる学術論文の出版を待たずして、2010年12月14日夕方に、マスコミを通して公式に発表された。
 「クニマスを2回も絶滅させてはならない。西湖の生態系はなんとしても守らなければ」と中坊教授は語っている。
西湖の「クニマス」
ニホンカワウソか? 対馬で撮影
【動画】対馬で撮影されたカワウソ=琉球大学動物生態学研究室提供
 琉球大学などのグループは2017年2月、「二ホンカワウソ」が長崎県対馬にいたのを確認し、映像を公開した。
 国内に生息していた「ニホンカワウソ」は絶滅したとされており、今回見つかったカワウソがどの種かは確認できていない。生きている状態でカワウソが見つかったのは38年ぶりだという。
 映像を公開した伊沢雅子・琉球大教授によると、ツシマヤマネコの生態調査のために設置した自動撮影装置に、偶然1匹のカワウソが写っていた。映像は数秒。具体的な場所は公表しなかった。
 現在はどこにいるかわからないという。
 「ニホンカワウソ」はかつて北海道・本州・四国・九州の沿岸や河川に生息していたが、毛皮目当ての乱獲や水質汚染で激減。高知県で1979年に姿が見られ、写真が撮影されたのが、公式の最後の確認となった。
 環境省は2012年、「ニホンカワウソ」の二つの亜種(北海道亜種と本州以南亜種)をともに絶滅種とした。だが、その後も、「目撃」情報は続いていた。
 国内の水族館やペットとして飼育されているカワウソは、ユーラシア大陸に広く分布するユーラシアカワウソや東南アジア原産のコツメカワウソ。「ニホンカワウソ」はユーラシアカワウソの亜種とする説と日本固有種とする説がある。
 安田雅俊・森林動物研究グループ長は、「太い尾、短い脚や全体のプロポーションから見て、映像はカワウソ以外の何ものでもない。特別天然記念物なので、今後は環境省と文化庁が協力して、公的な調査や発見場所への立ち入り制限、密猟の防止などの対応を取ることが大切だ。」と話している。
【日本のカワウソをめぐる経緯】
1965年国の特別天然記念物に指定
79年高知県で最後のニホンカワウソの生息を確認
89年環境庁(当時)が絶滅危惧種に指定
北海道旭川市で死体が見つかるが、調査で飼育されていたユーラシアカワウソと判明
2012年環境省はニホンカワウソを絶滅種と公表
17年長崎県対馬でカワウソが見つかる
3.希少種の保護
 一方、絶滅が危惧される動植物を保護しようという活動も、全国各地で盛んに行われている。
"ぽんすけ"の愛称で親しまれる「シナイモツゴ」
 「シナイモツゴ」は、体長は5cmほどのコイ科の淡水魚で日本固有種。名前は1916年に宮城県品井沼で発見されたことに由来する。

 かつては本州の関東・信越以北で普通に見られたが、農業者の高齢化や後継者不足で、生息地である溜池の管理が行き届かなくなり、底泥の堆積や陸化が進んで荒廃した。さらに、外来種のオオクチバスやブルーギル、近縁種のモツゴの侵入などによって急激に数が減少し、絶滅寸前に陥っている。

 長野県では、長野市・上田市(旧 真田町)・栄村など、山間の一部地域のみに生息し、2005年に長野県希少野生動植物保護条例で指定種となった。

 長野市信里(のぶさと)地区では、昔から「シナイモツゴ」のことを「ぽんすけ」とよんで親しんできた。この「ぽんすけ」を絶滅の危機から救おうと、2016年1月に「ぽんすけ育成会」が発足した。

 「ぽんすけ育成会」では、専門家や地元の関係者らが中心となって、観察会や講演会などを開き、「シナイモツゴ」が安心して暮らせる、里山の自然保護を呼び掛けている。

 また、「シナイモツゴ」をブランド化して、地域活の活性化につなげようとの取り組みも進められている。
4.希少種の発見
 地道な調査が希少種の発見につながる。
ブチヒゲツノヘリカメムシ
絶滅危惧のカメムシ長野で確認
〜栃木・那須以外では初の確認〜
 カメムシの一種で、環境省のレッドデータブックが「絶滅の危機に瀕している」として絶滅危惧類に指定している「ブチヒゲツノヘリカメムシ」が長野県中部に生息していることが、埼玉大教育学部の林正美教授(昆虫分類学)らの調査で分かった。

 国内では栃木県那須町でしか生息の確認例がなく、生態は謎が多いという。那須町でも宅地造成などで環境が変化、1990年代末からは発見情報が途絶えており、林教授は「今後、分布状況を調査し、生態を確認した上で生息地の保全を積極的に進めていく必要がある」と話している。

 林教授らは2007年9月、八ケ岳連峰の麓で幼虫を含むブチヒゲツノヘリカメムシを複数確認した。成虫は体長約10〜13ミリと比較的大型で、光沢のない黒褐色。

 ヨーロッパから日本にかけての森林周縁部に分布し、日本が生息地の東端という。