飲んだ薬はどこへ行く? ------- 薬は真っ先に肝臓へ行く----------
実は九子自身がとても長い間思い違いをしていたことがあります。とても基本的なこと(^^;
薬は最終的に肝臓で解毒されるって誰でも知ってることですよねえ。だから、薬は身体中をめぐりめぐって、最後に肝臓に届いて無毒化されるって思いこんでいたのです。
ところがそうじゃなかったのです。
薬は、まず腸からまっすぐ肝臓に運ばれてしまうのです。肝臓にはチトクロームp450を筆頭に、さまざまな薬物代謝酵素という薬を分解する酵素があります。まず薬はそれらの洗礼を受けるわけです。
プロドラッグと呼ばれる一連の薬たちがあります。pro(前の)drug(薬)、つまり薬の一歩手前の状態で製剤化されています。それらは、肝臓で薬物代謝酵素に分解されてはじめて薬の顔になることができるわけです。なんで、そんなにまどろっこしいことする訳?
実は、例えばロキソニンという痛み止めがありますが、これはプロドラッグです。御承知のとおり、痛み止めは胃を荒らしますよね。でも胃の粘膜を通過する時点ではこの薬はまだ薬ではないので、胃の粘膜を荒らす作用が少ないのです。
別のプロドラッグの使われ方として、例えばそのままでは吸収されにくい薬に手を加えて脂溶性の吸収されやすい形にして、吸収された後もとの形に戻るようにするなんていうこともあります。抗生物質のプロドラッグがそうです。チトクロームp450の洗礼を受けると、分解されたものは腎臓で排泄されやすい水溶性に変化します。
この飲んだ薬が全身に送られる前に肝臓で一部分解されることを初回通過効果と言うそうです。初回という言葉でおわかりのとおり、薬は何度も何度も身体をめぐり、その度に働くべき臓器に薬を届け、だんだん効き目を失いながら排泄されて行きます。
例えばニトログリセリン、古典的な狭心症の特効薬ですが、これはお水やお湯で飲んでしまってはいけません。舌下錠と言って口の中、舌の下で溶かす薬です。なぜか?
舌の裏側にはたくさんの血管がありますよね。鏡で見るとなんだか気持ち悪いくらいでしょ?舌下で溶けた薬は直接口腔から吸収され、肝臓には行かないのです。では、なぜわざわざ舌下錠にしたのか?それは、ニトログリセリンが肝臓の初回通過効果を大変受けやすいからだそうです。つまり、肝臓に行くとほとんどが分解されて薬の役に立たない!
まあそれはともかく(^^;、早く効かせようなんてあせって水で飲みこまないようにして下さいね!
がんの疼痛止めに使うモルヒネも初回通過効果が高いのでたくさん飲まないと効きません。余談ですが、モルヒネってすごく高いんです。錠剤の最低が1錠300円位、最高は1錠1500円!もちろんもっと高い薬もありますが、ガン治療にお金がかかるのも頷けます。
この頃喘息治療の主流になったステロイド吸入薬、これも初回通過効果がなんと95%だそうです。それって何なの?詐欺じゃあないの?いえいえ、これがこの薬の良いところ。何年続けても怖いステロイドの副作用がほとんど無いのは、このおかげなんですって!
薬物代謝酵素、なつかしいなあ、国家試験のヤマでした。今では一体何種類のの酵素が発見されているのでしょうか?(答え、十数種類あるチトクロームp450の中で、実際薬の分解に携わる主役は5種類だそうです。)とにかく、この薬物代謝酵素が試験でも曲者でしたが、実際の薬の効き目を決定づけるものとしても大変曲者なのです。
副作用の、特に薬と薬の飲み合わせが書かれた情報を読んでいると、至る所に「薬物代謝酵素を誘導し・・・」という文章に出会います。これはどういうことかというと、
Aの薬を飲んでいる時Bの薬を一緒に飲んだら、Bの薬が肝臓に届いた時に薬物代謝酵素が出て、Aの薬の作用がまあ普通に考えたら弱くなってしまう。ところがなかには強くなってしまうこともある。この当たりが曲者なのです。
例えばワーファリンという薬、脳梗塞の予防薬で、血をさらさらにする、つまり、血を止まりにくくする作用があります。血をさらさらにする効果はピカイチですが、この薬はいろいろな薬との飲み合わせが悪いことで有名な薬です。だから多分、いろいろ試しても脳梗塞の発作を何度も起こしているような人にしか処方されないはずですが、万が一あなたにこの薬が出た時は、どこか違う医者や歯医者にかかるとき、かならず「私はワーファリンを飲んでいます。」と告げなければなりません。そうでないといろいろな薬との相互作用(飲み合わせ)により、へたをすると命の危険にもつながりかねない怖い薬です。もちろん、歯を抜く、傷口を縫う等の処置をしてもらう時も申告が必要です。
たとえば、痛み止め。どこのご家庭にも薬箱の中に一つや二つ転がっているでしょう。アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなどという、かなり有名で誰でも知っている薬が主成分の痛み止めがほとんどだと思いますが、それらもワーファリンと一緒に飲む際は注意が必要です。
これらの痛み止めにはもともと血をさらさらにする効果があるのです。アスピリンが主成分の有名な薬「バッファリン」、これは最近血栓予防薬として「バッファリン81」という名前で処方薬の仲間入りをしたくらいです。なぜ81なのか、それはアスピリンの量が1錠81mgだからです。痛み止めのバッファリンは大人量1錠でアスピリン330mg入っています。実はアスピリン81mgという量は小児用バッファリンのアスピリン量で、以前は脳梗塞予防薬として経験的に小児用バファリンが処方されていました。これを毎朝1錠飲むだけで、血栓予防効果があることが認められている訳です。それを、痛み止めとして飲むときは、アスピリン量として300mgも600mgも飲むわけですよね。いかに血液が流れ易くなるか、つまりは血が止まらなくなり易いか・・・もうおわかりでしょう?
注!上記下線部の部分についてご親切な通りすがりの(多分ご専門の研究者の)方より指摘を頂きました。九子はアスピリンの量が増えれば増えるほど血液を流れ易くする働きが増えると単純に思いこんで居りましたが、そうではなく、量が増えればその分、今度は違う作用によって却って血液が固まり易くなるのだそうです。だから、現在の一錠中アスピリン81mgという量が、必要充分の量であるらしく、風邪薬として「バファリン」を飲む時は、血が止らなくなるかなあと心配する必要はありません。「通りすがりのものです」さん、本当に有難うございました。尚、「通りすがりのものです」さんのより詳しい説明をお読みになりたければ、「九子のお薬たじろぎ(^^;掲示板」書き込み番号53番を御覧下さい。
つまりもともとワーファリンを飲んでいるところへ、更に血をさらさらにする薬が入るわけです。もう、わかりますよね。出血しやすい状態が起きてとても危険なのです。実はその他にもっと心配なことがあるのです。それは、ワーファリンは血漿アルブミンとの結合率が高いということなのですが、それは次の項目で・・。
ワーファリンの添付文書を広げると、とても九子の悪い頭では入りきれないくらいたくさんの薬との相互作用が書いてあります。その上、アルコール、納豆、クロレラなどの食品や、最近有名になった坑うつ作用があるというセントジョーンズワートという健康食品とも食べ合わせが悪いので、くれぐれも注意してください。
注意するのはなにもワーファリンだけではありませんよ〜。一般的に糖尿病の薬、つまり血糖降下薬、精神安定剤、心臓病の薬、特にジギタリス製剤(強心剤)とβ遮断剤(狭心症、降圧剤、不整脈に使われる)、坑精神薬、坑うつ薬、血圧降下薬、喘息の薬etc,etc。
市販の痛み止めだから、風邪薬だから大丈夫とか、みんなそう思いがちですが、たまたま飲んでいた別の薬との組み合わせによっては思わぬ副作用が出ることを頭のすみに入れておいて下さい。
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本日のおさらい
薬はまず肝臓に運ばれて分解される。薬にはこの分解を受けやすいものと受けにくいものがあり、たとえば極端に分解を受けやすいニトログリセリンは、最初から肝臓へ行かないようになめているうちに舌下から直接吸収されるように加工されているので、くれぐれも間違えてお水で飲みこまないように。それから、飲みあわせの悪い薬の代表ワーファリンがあなたに処方されたときは、別のお医者さんや歯医者さんにかかるときは必ず知らせてください。そして、特に持病の薬がある人は市販の痛み止めや風邪薬だからといって甘くみないで、きちんと薬剤師に相談して下さい。
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血漿蛋白結合-------薬は血液中のたんぱく質と仲良し!--------
意外! 薬は全部が効くわけではない!
あなたは飲んだ薬の全部がすぐに薬として働いてくれると思うでしょう。さにあらず。
実は薬は、血液中のアルブミンという蛋白質と仲良しで、すぐにアルブミンとくっついちゃう。つまり、結合してしまうのです。もちろん、全てが結合するわけではありませんがすごく結合率の高い薬では95%以上も・・・・。(頭の良いあなたは覚えてるでしょう!ほら、ステロイド吸入薬がそうでしたね!)
アルブミンは結構大きいので、それに結合しちゃうと薬として働きたくても血管の膜を通れなくて、働けない。
つまり、アルブミンと結合していない薬だけが、本当に働ける薬というわけです。
ところがここが人体の凄いところだと思うのですが、そうやって血液が身体をめぐりめぐっているうちに、患部に薬が届いてその分、血液中にはだんだん自由に薬として働けるフリーの薬が減って来ますよねえ。そうすると、今までアルブミンと結合してた薬が、今度はアルブミンから離れてフリーの薬として患部に働くようになるのです。
もうお分かりですね。薬が効き目を発揮するためのもうひとつの大事な要素が、血漿蛋白質アルブミンとの結びつきの強さというわけです。
アルブミンとの結合率は、薬によって違います。結合率の高い薬は、効き目が遅くなり、体内にとどまる率が高くなる。反対に早く効く薬は、結合率が低く、身体から抜けるのも早いと言えるでしょう。
さて、さきほどのワーファリンの話にもどります。ワーファリン服用時にアスピリンを飲むとどうなるでしょうか?
ワーファリンはたんぱく質と結構仲良しなのですが、アスピリンは実はもっと蛋白質と仲がいいのです。だから、アスピリンはワーファリンと結合していた蛋白質を横取りして結合してしまうのです。そうなると蛋白質と結合していないフリーのワーファリンが増えて、ワーファリンが効きすぎて出血しやすくなってしまうというわけです。また、アスピリンをはじめとする痛み止め(非ステロイド性坑炎症剤)は胃を荒らしやすく、胃からの出血の危険性も増します。
つまり、ワーファリンを飲んでいる人がワーファリンよりも蛋白結合率が高い薬を併用する時が危険だというわけです。
そうそう、それからさきほどお話した肝臓にあるチトクロームp450。これは薬物を代謝、つまり分解する酵素ですから、普通に考えればチトクロームp450が出てくれば薬の効き目が弱まるはずですよね。ところがどっこい、そう単純には行かないのですって!
薬物代謝酵素チトクロームp450にはいろいろな種類があるって書きましたよねえ。その中でこんな決まりがあるそうです。
1)同じ種類のチトクロームp450で分解される薬同士を併用すると、互いに分解を妨害して、薬の効き目が強くなる。(そうだよね、同じ量の酵素を二つの薬で分け合うんだもんね!)
2)酵素で分解された物質と酵素が結合し、酵素の働きが止まるために併用薬の効き目が強くなる。
3)薬事体と酵素が結合し、分解力がなくなって併用薬の効き目が強くなる。
でも、こうして見ると併用によって薬の効き目が強くなっちゃうことが意外に多いみたいね。これって結構危険だわ。何しろ薬はたくさん飲めば毒ですからね。
それから、糖尿病の人が血糖降下薬飲んでる時怖いのが低血糖。これも薬が効きすぎちゃったためで、命にかかわる事が多い。それから、さっきも出てきたワーファリンを飲んでる人は糖尿病にはなれませんよ!例の蛋白結合力が結構強いワーファリンと血糖降下薬との間で、どっちが血漿蛋白アルブミンとくっつくかでけんかするのでとても怖いからです。
でも、安心してください。糖尿病もあり、脳梗塞もおこし易い人でも、ワーファリン意外の薬を飲むとか、血糖降下薬を止めてインシュリン注射にするとか、それはそれでお医者さんがやり方を考えて下さることでしょう。
とにかく薬の効きすぎは困りもの。薬なんて、飲まなくてすめばそれに越したことないんだもの。
糖尿病の家族をお持ちの方へ
最後に、糖尿病の薬を毎日飲んでいて、ついついお酒を飲んでしまったり、食事を抜いてしまったり、下痢をしたり、働きすぎてしまったり・・・の後に現れ易い怖い「低血糖」について一言! 最初に強い空腹感があらわれます。その時に甘いもの食べればそれで良くなっちゃうんですが、そのうち発汗、いらいら感が出て、急に顔が青くなって、皮膚が冷たく、腹痛、吐き気、ふるえ、けいれん、頭痛、混乱、動悸・・等があったら「低血糖」を疑ってください。意識があれば、砂糖をなめさせます。10〜15グラムで良いそうです。もし意識が無くなっていたら、急いで救急車を呼んでください! 同時に、砂糖をなめさせたり、砂糖を含むキャンディーをなめさせてください。ジュースも良いです!チョコレートは、吸収に時間がかかるので避けた方がいいそうです。 それから、もし「ベイスン」とか「グルコバイ」とかいう、食直前に飲む薬を飲んでいる人は、砂糖ではなくブドウ糖をなめさせて下さい。これらの薬は、砂糖が吸収されるのを妨害する薬だからです。ブドウ糖は、ですから必ず手元に用意しておいて欲しいのですが、急な場合は・・これ、ネット上で言って良いのかなあ?某コ○コーラ社の飲み物、コーラ、ハイ○ーオレンジ、ハ○シーアップル、それから特に多いのがファン○オレンジ、グレープの類がブドウ糖を多く含みますので、ご参考にして下さい! |
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本日のおさらい
薬の効き目を左右するのは、肝臓の薬物代謝酵素チトクロームp450等の働きや初回通過効果だけではなく、血液中のたんぱく質血漿アルブミンと薬との結合の強さが大きく影響する。この血漿蛋白結合力の強いアスピリンは、より結合力の弱い薬から血漿蛋白を奪い取って自ら結合してしまうので、奪い取られた方の薬はフリーになって、血管のかべを容易に通りぬけ、薬としての力が強くなってしまう。
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