はじめに

 あなたは「シナイモツゴ」という小さな川魚をご存じですか?
 かつて北日本に広く分布していたこの小魚は、近縁種に駆逐されたり、外来種に脅かされたりして、今や絶滅に瀕しています。
 そんな希少な小魚が、我らが長野県に分布しているということを、いったい何人の長野県民が知っているでしょうか?

 2006年に長野県希少野生動植物保護条例の対象種に指定され、その捕獲が規制されるようになったものの、その知名度があまりにも低すぎる現状のままでは、今後の官・学・民一体となった保護活動の進展は望めないのではないでしょうか。

 そこで、ここでは、シナイモツゴを一人でも多くの方々に知っていただきたいという思いから、この小魚に対する私の雑感を混ぜながら、シナイモツゴについてご紹介していきたいと思います。
 以下、読んでいただきやすいように、なるべく「論文調でない論文」で書き進めたいと思います。


分類

 シナイモツゴは、コイ目 Cypriniformes・コイ科 Cyprinidae・ヒガイ亜科 Sarcocheilichthyinae・モツゴ属 Pseudorasbora に分類されます。

 モツゴ属には、黒龍江から福建省までの中国大陸と、朝鮮(韓)半島・日本列島・台湾に分布する3ないし5種が知られていて、日本にはモツゴ
P. parvaP. pumila の2種が分布しています。

 P. pumila の方は日本固有種で、シナイモツゴ
P. pumila pumila とウシモツゴ P. pumila subsp. の2亜種に分けられています。
 しかし、ウシモツゴには未だに亜種小名が与えられていなかったり、亜種より下の分類単位の「型」として扱われることもあったりで、それらの分類学的研究は十分になされていません。


形態

 モツゴの仲間は、どれも流線型の小魚で、モツゴ・シナイモツゴ・ウシモツゴ共に、見た目の形がとてもよく似ています。
 大きさは、どれも5〜6cm位、最大でも8cm程度です。

 モツゴとシナイモツゴには、体側に黒い1条の縦縞があります。

 魚の場合、頭を上に尾を下にした向きで、縦になるのが縦縞、横になるのが横縞と呼ぶので、頭と尾を水平にした普通の向きでは、縦と横が逆になります(図1)。

  図1・縞 : 縦縞(上)と横縞(下)


 普通、モツゴとシナイモツゴの縦縞は、頭(鰓蓋)の後方から尾鰭の付け根にかけて、明瞭な黒色で続いていますが、中には体側の前半部分が不明瞭な個体や、全くない個体もいます。

 モツゴに比べて、シナイモツゴの縦縞の方が、黒くはっきりしていると言われていますが、前述のように個体差もあって、縦縞の有無や明瞭さが両種を見分ける決定的な違いとは言えません。

 ウシモツゴには、その黒い縦縞がないので、モツゴやシナイモツゴと容易に見分けることができます。

 モツゴとシナイモツゴ・ウシモツゴの明確な違いは、側線の有無(完全か不完全か)です。


 側線とは、頭(鰓蓋)の後方から尾鰭の付け根にかけての、体側中央に一列に並んでいる鱗一枚ずつに開いている感覚器官の穴のことで、一見それらが列なって点線状に見えることから、体側にある線という意味でそう呼ばれています(図2)。


 
 図2・側線 : 完全(上)と不完全(下)


 モツゴでは、その側線が頭(鰓蓋)の後方から尾鰭の付け根にかけて、直線的に完全にあるのに対して、シナイモツゴとウシモツゴでは、頭(鰓蓋)の後方の数枚の鱗にしかありません。中には全くない個体もいます。
-1-
次のページへ→