★以下の文章は平成15年4月、長野市民新聞の「こだま」というコラムに内山二郎氏が載せら

れたものです。

 

  ドクターSの死と「いのちのバトン」  内山 二郎

 診察室の窓から今年の山桜を見ることなくドクターSが逝った。胃の全摘手術から1年9ヶ月、

48歳のあまりにも早い旅立ちに、わたしは胸の奥からあふれる悲嘆の情感を抑えることができ

ない。 ドクターSとの出会いは6年前の夏、医療フォーラムで末期がん患者の看(み)取りをテー

マにした創作劇「いのちのバトン」に取り組んだときであった。

 当時、長野市の若手医師たちの集まりである医青会の役員をしていたドクターSは、オープニン

グとフィナーレの合唱の企画に燃えて、医青会グリークラブマネジャーとして近隣の病院や医院

の医師たちに働き掛けてステージづくりを献身的に支えてくれた。このとき生まれた医療と福祉

関係者のネットワークは、今でも長野市の地域医療の中に生かされている。

その彼が、このドラマの主人公と同じ運命をたどるとは何と皮肉なことだろう。

 この出会いが縁で、ドクターSにはその後さまざまな場面でお世話になった。特に忘れられが

たいのは、ボランティア国際年記念事業として合唱組曲と演劇とバレーを総合した「いのちのシ

ンフォニー2001年の樹」のステージを企画したときである。連日のトラブルとけいこでボロボロ

に疲労困ぱいして家に帰るとメールが入っていた。

「あちらの世界に旅立とうとしている者に、主題曲『めぐるいのち』は希望とやすらぎを与えてくれ

る素晴らしい作品です。自分を信じて頑張って下さい。」

ドクターSからの励ましのメッセージだった。このとき彼はすでに闘病生活に入っており、大手術

後の体を押して県民文化会館でのステージを見に来て称賛してくれた。

 それから、あるときは自宅のソファで、あるときは入院先の市民病院の病室で、穏やかに語る

ドクターSの言葉を傾聴する機会を得た。それは少年時代、ふるさとの千葉の海で遊んだ思い出

から始まり、大好きな音楽の話、人間世界の争いについて、悟りと修羅の間を揺れ動く心の葛

藤(かっとう)、医療を受ける側になって初めて分った患者の心と医療の在り方、残していく家族

への気遣いなど、彼の内奥から発せられる一言一言が心に響いた。

 はるか窓のむこうに広がる北信五岳を望みながら交わした会話が耳から離れない。

「無念に思うことってありませんか」とわたし。

 長い沈黙の後、ドクターSは言った。

「今が、いちばん幸せです。いのちのバトンを渡して、準備万端OK.。すべての人に”Thanks a

lot.”の心境です。」

 最愛の家族と心を許した仲間たちに見守られてドクターSは静かに帰らぬ人になった。

告別式は12日午後4時から、安茂里ハクゼンホールで行われる。そこでコーロソアーベ合唱

団の仲間たちによって「こころのハーモニー」と「めぐるいのち」が歌われる。

ごめい福を心よりお祈り申し上げます。                         合掌

 

 

NHKカセット/CD講話集「いのちを見つめて」より

 

◎小さな希望を毎日毎日持ち続ける・・・・・・これが”上手な生き方”なんですね。

        聖路加国際病院名誉院長     医師  日野原 重明

 

◎心をちょっと支えてもらうだけで、不思議なほど病気が暴れ出さない。人間はたぶん体だけで

生きている わけではないんですね。だから人が生きている限り、医者や看護婦のやることがな

くなるということはないん じゃないか。見放さない医学、放リ出さない医学が大事だって思うん

ですね。

         諏訪中央病院管理者        医師  鎌田 實

 

◎私たち人間は「つながりの中でいのちが輝く」というプログラムを持っているようです。時には

患者さんの手を 握る、背中をさする、抱きしめるなどの触れ合いによって、その人の生命のバ

ランスがとれてくるのを感じること があるのです。

          東札幌病院副院長・看護部長  看護師 石垣 靖子

 

◎時間の使い方は、そのままいのちの使い方ですから、ぞんざいな時間を使うとぞんざいな人

生が残ります。 丁寧な時間を使うと丁寧な人生が残ります。私の時間を私にしか使えない時間

にすること、愛を込めて生きるということが大切なのだと、教えていただいたのです。

        

          ノートルダム清心学園理事長  シスター 渡辺 和子

 

◎若々しさの秘訣は「一笑一若」、表情を豊かに、どんなことでもよい方に解釈して楽しむことが

大切なんですね。

 

          精神科齋藤病院名誉院長    医師    齋藤茂太

 

◎「息を引き取る」といいますが、本当に息は引いて取るんです。人間の呼吸というのは実に不

思議なもので、みなさん、息を吸って止るんです。それは人間の身体が最後まで生きるように生

きるようにと努力を重ねるべく作られているからです。

          統合人間研究所所長       医師   早川 一光

 

◎年をとった時の健康というのは、今まで生きてきた人生の決算ですから、自分なりにどういう

原則で生きるかということを意識すればいいんです。便利な機械は使わない、一日に一回は感

動する・・・そういったことをまとめれば自分なりの健康法が見えてきます。

 

            北里大学教授          解剖学者   養老 孟司

 

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