子供を好きになる魔法(平成13年10月9日信濃毎日新聞より抜粋)
インターネットホームページ「たんぽぽの仲間達」を管理する養護学校教諭 山元加津子さん
は、凄い人だ。小さい頃からなぜか小さな子に好かれた。動物達もそうだった。
決して外交的ではない。いつもおずおずと恥ずかしそうだ。
「人も動物も、私はすぐ大好きになります。よく知らない相手だって、好き好きと繰り返していれば
本当に好きになる。好きって魔法の言葉です。」
勤務する石川県の県立養護学校でも”大好きパワー”を存分に発揮してきた。
障害のある子の多くは固く心を閉ざしている。その気持ちに寄り添い、優しく我慢強く接し、心の
扉を開いていった。喜怒哀楽の表情が無く言葉も出なかった少女も、やがて単語を発し、おしゃ
べりし歌うまでになった。母親は驚きの言葉をもらした。
「奇跡です。大好きってこんなに大事なんですね。」
何かをつぶやきながら原稿用紙に文字らしきものを書きつけていた原田大介君。初めは加津子
さんと目も合わせてくれなかったが、心が通い合うと、だれもが読める字を書き、気持ちを詩と絵
で表現するようになった。
1995年、大ちゃんと共著の詩画集「さびしいときは心のかぜです」(樹心社)を出版。反響は大
きく、講演の依頼も舞い込むようになる。
講演で「人はいろいろだから素敵。”分ける心”を押しつけないで」と訴えた。
講演のため東京へ行った時のことだ。JR山手線に乗った途端、ぴりぴりした空気が突き刺さっ
た。屈強な男が怒鳴りながら少年に殴りかかっている。遠巻きに見守る乗客たち。
次の瞬間、彼女は自分でも思いがけない行動に出た。男に近づき、抱き締め、ささやいたのだ。
「大丈夫だから。怖くないから。」
養護学校の子が荒れたとき、いつもそうするように。
「その男の人が、とてもつらくて寂しそうに見えて。つらさに耐えられなくて当り散らす子どもの姿
とだぶったんです。」
初め、にらみつけていた男の目からぽろぽろ涙がこぼれた。
「どうして抱き締めたりしたの。僕は、たまたま優しい極道だからいいけど。」
男は照れたように言った。以来、”極道氏”とは文通を続けている。
彼女の夜は長い。本や講演を通じて出来たお友達からのメールや相談に一つ一つ丁寧に応じ
る。寝るのはいつも午前2時過ぎ。
詩人の高田 宏氏も、彼女を「頭で考えた優しさじゃない。おなかの底から優しい人」と評する。
「心と心を隔てる扉は取り外すことができる。大好きになれば大丈夫。」