端唄について

「はうた」と読みます。

江戸時代の初期頃から中期頃に全盛期を迎えたと言われ、三味線を伴奏に唄う歌曲です。「端」という文字が使われていることからもわかるように、たいていは一曲の長さが短く、季節の風物や、遊郭を舞台にした恋もようを粋に唄い込んだ曲が多いのが特徴です。同じ時期に流行った歌舞伎の舞台音楽として、「長唄(ながうた)」「清元(きよもと)」「常磐津(ときわづ)」などのジャンルがありますが、それらが華やかな劇場舞台で演奏されるのに対して、端唄は、料理屋さんや遊郭の座敷を舞台に、庶民にとっても身近な芸能として、広く親しまれました。小粋な流行歌のおもむきですから、武士、商人、絵師や書家はもちろん、一般の江戸庶民にいたるまで、多くの人々にもてはやされたと伝えられます。

ごく短い歌詞の中には、「恋しい人を待つ」を木の「松」に掛けたり、「気を揉む」を「もみじ」に掛けたりといった、しゃれた掛詞(かけことば)が生きていたり、遊女言葉や芝居のせりふがさりげなく効いていたり、という具合に、言葉のあそびがふんだんです。また、逢瀬(おうせ)や色ごとを、季節の風景に託して描く様子も巧みで、直接的な言葉で恋愛を語ることの多い現代の流行歌とは、ひと味違う風情を楽しめるのも特徴といえるでしょう。

三味線の旋律が、唄の節とは異なっているのも大きな特徴です。これは端唄に限らず、日本の伝統的な歌曲に共通する点で、小さい頃から洋楽に親しんで育つ現代人には、戸惑いを覚える要素となっているわけですが、これも、邦楽ならではの魅力のひとつでしょう。三味線と唄とのメロディの掛け合いや、微妙な間のバランスが、独特のおもしろさをかもし出しているのです。

ところで、しばしば「端唄と小唄(こうた)はどう違うの?」というご質問を受けます。一般的なくくりとしては、江戸時代に始まった端唄から、明治時代以降に派生したのが小唄と言われています。もっとも、両者で共通して唄われる曲も非常に多く、「これは端唄、こっちは小唄」というような、明確な区別はあまりされていないのが現状です。なお、小唄は座敷の芸能として、比較的狭い空間の中で唄や三味線を楽しむ形で定着してきたため、三味線にバチをかけず、爪で弾く「爪弾き(つめびき=つまびきではなくつめびきと呼びます)」が一般的です。この演奏スタイルの違いから、両者を区別する場合もあります。

端唄は、何よりも「粋」を重んじ、粋な生き方にあこがれた、いなせな江戸の人々に愛され、現代まで生き続けてきた芸能。くどくどと説明するのは野暮な話。「何となくこんな雰囲気のもの」と、ごく気軽な気持ちでお楽しみいただくのが、一番と思っております。そして、なんとなく好きになっていただけたら、こんなうれしいことはありません。

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