日頃、友達などから股間を指さされ「お前の父ちゃんて、もしかして外人?」と言われがちな私だが、そんなことは全然なくて、身も心もれっきとした日本人である。――髪はちょんまげに結ってるし。
そんな生粋の日本人な私は、民族性のせいなのか、他人に対して『断る』という行為がとても苦手である。例えば、
デート当日に友達から急な誘いの電話(合コン)があったとする。普段から「女より友情を取る!」と息巻いている私としては、デートをキャンセル
して大至急友達のもとへと駆けつけたいところなのだが、彼女に断りの電話をすることができない私は、やむなく無断で友達のもとへと道急いでしまうのである。
考えてみるに『断る』という行為が苦手な理由は、相手がガッカリする姿が目に浮かぶからなのだろうと思う。できれば他人がガッカリしている、または
怒っている場などには居合わせたくないのが人情で(嫌いな相手は別として)、原因が自分ともなれば尚更である。私がはっきりと『断る』ということができないのは
そんなところからきているのだろう。
そう考えると私が高校生の時に、友達の小林君からくらったドタキャンの理由は、まったく見事としか言いようがない。
――下校の時間。教室横のロッカー前にて。
「あの……仮面マスク」
「うん? なに?」
「明日さ、一緒に遊ぶ約束してたんだけどさ。……ごめんね、行けなくなっちゃったんだよ」
「えっ、うそ。なんで?」
「オレん家明日、脱穀(*)あるんだ」
「……………………」
「ごめんね。また今度にしてくれる」
*【だっ-こく 脱穀】<―する>穀粒を穂からとり離すこと。また、穀粒からもみがらをとり去ること。もみすり。
そう言って謝る小林君に、私は「がんばれよ……」としか言えなかった。
この体験から「断りの理由によっては相手をがっかりさせずに済む」ということが見えてくる。実際、当時の私は上のやりとりで
がっかりするなんてことはなく、ただ「それじゃ、しようがない」と思うばかりであった。こちらの我がままで、米の収穫を遅らせるわけにはいくまい。
どうやらこの「それじゃ、しようがない」と思わせることが、双方、心を痛めずに済むポイントのようである。
そこで以下のようなことを考えてみた。
<身内を理由に使えばいいじゃない>
1.おじいちゃんが昨夜UFOに連れ去られたので、これから捜しにいかなきゃいけない。
2.お父さんが自分の居ない間に日記を見ようとするので、それを阻止するためにどうしても外出できない。今も柱のむこうで機をうかがっている。
3.お婆ちゃんが天井に張り付いて、いくら呼びかけても下りてこない。
<事故を理由に使えばいいじゃない>
1.プラモデルを組み立てていたらアロンアルファが足についてしまい、床から離れない。
2.睡眠中に頭をうったらしく記憶がない。君のことも忘れてしまった。「知らない人について行ってはいけない」と親に厳しく
言われているので、君とは遊べない。
3.季節はずれの獅子舞が家に乱入してきた。
<その他なんでもいいじゃない>
1.モンゴルマンのマスクが見つからず身動きがとれない。
2.玄関が不良の溜まり場になって通過できない。
3.前からオマエがきらいだった
上に挙げた理由を話せば、相手もきっと「それじゃ、しようがない……」と快く諦めてくれるに違いない。
断るのが苦手な人は遠慮なく、ぜひ活用していただきたい。
―2002年6月26日―