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―― 秘密基地炎上 ――

 自慢じゃないけど、私は地元の新聞紙に載ったことがある。

 これは市の開催した『小学生絵画コンクール』に入賞しただとか、祖父が往生した為に喪主として『おくやみ』の欄に名前が 乗っただとか、『あなたの町のハンサムさんコーナー』にこっそりと投函されていた、といった類のものではない。 私は小学4年生の時に、火遊がもとで資材置き場のプレハブ小屋を全焼させてしまったという苦い過去を持っているのだが、 その事件が翌日の朝刊に載ってしまったという、本当に自慢にならない話なのである。



 当時の私を含めた数人の悪ガキグループは、そのプレハブ小屋が設置されていた土地を「秘密基地」と称して放課後の溜まり場にして いた。実際は先にも書いた通り『○×建設株式会社』の資材置き場であり、まったく秘密の場所になっていないのだが、そこはTVドラマ の“マフィアは港や資材置き場で密約を交わす”という影響もあったのだろう。

 秘密基地に集合したからといって特別にやることなど何もない。積み上げられた鉄材やユンボなどが邪魔になって遊ぶスペースがない為、 ただ小さくかたまって「暑いなぁ」だの「早く土曜日にならないかなぁ」だのと会話をするだけである。はたして何が楽しかったんだろ。

 そんな暇な会合の中で生まれた遊びが100円ライターを使ったものだったのである。遊び方は単純で、 近くに生えている雑草に火をつけたり、カマキリや蝶といった昆虫を燃やして「飛んで火に入る夏の虫だ!」とくだらない駄洒落を 言ったり(我ながら罰当たりなガキだ)、とにかく目についたものを手当たり次第燃やしまくっていたのだ。

 その内燃やすものも尽きて「他にないかな……」と辺りを探して見つけたのが例のプレハブ小屋にあった大量の籾殻なのだが、 これこそ“飛んで火に入る夏の虫”なのであった。

 乾燥した籾殻というのは予想以上に燃え広がるのが速く、また消え難いもので、足でバンバン踏もうが、シャツを上にかぶせようが、知らぬ存ぜんで燃え続けたのである。 しかも運の悪いことに、1人のバカ がポリタンクに入った灯油を水と間違えて火にかけたからものだから、もう最悪である。 実際、火勢でガラスが割れたのを見たのはあれが初めてだった。

  (注:灯油と水を間違えたバカが、この文章を書いています)

 その後は消防と警察のお世話になり、「もう火遊びは二度としません」という誓約書をしっかりと書かされた。そして、地元新聞記者からの インタビューなんかも受けた(質問に答えたのは私1人だけで、他の友人は泣いてばかりで話ができなかった)。



 私にとって小学4年生という時期はどうも厄年だったようで、この他にも“病院の前で車に轢かれる”という間抜けな事故を起こしたりもしている(そして、その病院で治療した)。

 大きなお世話かもしれないが、これを読んでいる皆さんも夏だからといってムチャな火遊びでやけどをしないように気をつけていただきたい。

―2002年7月27日―

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