毎年年末に差しかかるとTVのニュースなんかから、「今年は12月の大晦日を待たずして既に交通事故の発生率が去年を上回っており、
県警の予想では過去最高の事故発生率になるだろうとの見解が発表されています」、なんて言うアナウンサーの声が巷間を流れたりする。
こういった交通事故のデーターというやつは、こと車を運転する我が身としては対岸の火事を眺めるように「へぇ〜……」と一瞥して
通り過ぎるわけにはいかず、身につまされる。
私はニュースや新聞で知る事故に対してけっこう現実的に考える方で、「いつ自分の身にふりかかるともしれないぞ」と日々自分自身に注意を
促しながら運転をしていたりする。神経がイライラしている日はいつもより周囲の状況確認をしっかりやるし、大通りから横道に入るときには
余裕を持ってウィンカーを点灯して後続車に減速の旨を伝える。また、いつでも素早く車外へと避難できるようにシートベルトは必ず外して
走行するように心掛けているなど、万が一の事故への備えも抜け目はない。
しかし、こうして安全運転を心掛けていても予想だにしない事態というのは起こりうるわけである。
これはつい先日に起こったことなのだが、ウルトラマンシリーズのチョコエッグを買って『奇獣ガンQ』なる目玉のでかい
怪獣のハズレフィギュアにがっかりしながら家路へと車を走らせていた時のことである。交通量の多い大通りを右折して住宅の密集する
路地をしばらく走っていると、凄まじい激痛と共に自分のまつ毛が眼球に飛び込んできたのである。
「イデデデデ!!!」
視界を奪われた私は術を無み、車をその場に緊急停車させた。
涙に歪む視界の中をなんとか路肩に車を寄せてハザードを焚いた私は、そのまま暫くうずくまって痛みが過ぎ去るのを待って事なきを得たのだが、
これがもし大通りの真ん真ん中で起こったとしたら、私は今頃ここにいないはずである。
車の運転中による交通事故の中にどれくらいの割合で『よそ見』があるのかは私の知るところではないが、運転中のよそ見による事故
の中には今回のような“目の中にまつ毛が入った”などといったミニハプニングから発生した事故なんかも含まれているのではないだろうか。
これが死亡事故ともなれば死人に口なしで「まつ毛が原因で……」なんてことはついぞわからず、「前方不注意による追突事故」とかでひっそりと
片付けられていることだろう。
これは別段まつ毛に限ったことではなくて、他にも本人にしかわからない事故に繋がるハプニングというものはいくらでも考えられる。
例えば22歳の性欲旺盛な青年がスポーツカーで峠を走っていたとする。
「はぁ〜、乙葉ちゃんの胸はでかくて、やわらかそうで、いいなぁ〜。あのゴム毬みてぇーな胸で、ダブルドリブル
してみてぇーなー、はぁ〜……」
なんて妄想をしているうちに股間がムクムクと大きくなってくる。
「おっといけね、カーブだ――あれっ!? ハンドルが切れねぇーぞ! どうなってんだ? うわっ、チンコにハンドルがつっかえてるぅ! 」
と、そのまま夢半ばで崖下に転落した青年もいるはずである。
後で警察が駆けつけたときにはチンコは萎んでいる のでそれが原因とはわからず、「前方不注意による転落事故」となってしまう。
死亡した青年は悔やんでも悔やみきれないことだろう。心中をお察しします。
他にも「運転中に虫垂炎になった」、「『赤ちゃんが乗っています』というステッカーを貼った車自身が無謀運転をしていて面食らった」、
「ボンネットから引田天功が鳩と共に登場して驚いた」、なんてこともあるかもしれない。
そう考えていくと“よそ見運転による事故”というのも殊更ミステリアスな原因のように思えてくるが、こんなことばかり考えていると
運転がうわの空になってしまうので、ほどほどにしなければいけない。
―2002年10月30日―