シルビア通信1 >> エッセイ >> トラップ式パッチンガム

―― トラップ式パッチンガム ――

 欲しい、欲しい、と思っていた品物をいざ購入してみると「なんかイメージしてたのと違う……」なんて経験は誰しも一度はあるんだろうなぁと思う。私にもそういった失敗は指折りあるわけなのだが、中でも期待外れも甚だしかったのがこの『トラップ式パッチンガム』である。

 あの『ドラえもん』にも登場する程メジャーなこの商品を知らない方はよもやいらっしゃらないとは思うのだが、もしかしたらご存知のない方もおられるやもしれないので(86歳のシルビア通信読者とか)一応説明しておくと、このガムは悪戯を目的に作られた玩具であり、中身のガムを引っぱると仕掛けのバネに指を「パッチン!」と挟まれてしまう、何とも底意地の悪い商品なのである。

パッチンガムの構造
図-1 トラップ式パッチンガムの構造

 *86歳のシルビア通信読者様へ――ちなみにこれは野ねずみを捕るためのものではなく、あくまで対人用の玩具です。

 その昔、この商品をデパートの玩具売り場で目にした私は、

「よし! これを買って皆をはめてやろう。へへへ……」

 などと底意地の悪いことを考え、二の足でこの『トラップ式パッチンガム』を購入したという経緯がある。

 ――が、しかし。

 家へと飛び帰り商品の封を開けた私は愕然とした。というのもこの商品、ガムを入れておく外装が仕掛けのバネに耐えられるようボール紙で作られていたのだ。中身にはガムが2枚しか入っていないのに、新品のように(もしくはそれ以上)角張っている外装。こんなガムを私は今まで見たことがない。果たして他人はこんなものに引っ掛かってくれるものだろうか?

 ためしに「ガム食うか?」と試金石の弟にたずねてみると、

「うん? ……なんかこのガム、パッケージが怪しいんだけど」

 と、私と同じ感想を述べつつも仕掛けのガムを引いて「パチン!」と指をはさんだ。そして、「やっぱりね……怪しいと思ったよ」という捨て台詞を残して自分の部屋へと去って行ったのである。

 私の心は複雑だった。

 確かに引っ掛かることは引っ掛かるが、私の思い描いていたものには程遠い結果である。もっと、こう、何の猜疑心も抱くことなくガムを引いて「痛っ!? まいったなこりゃ!」という引っ掛かり方を期待していたのだ。Mr.マリックがシルクハットから鳩を出してご満悦――そんなお粗末な仕掛けでは、騙すこちらの気分も晴れはしない。

 その後も何人かの友人に試してはみたのだが、「なんか怪しいなぁ……」―「やっぱりね」、の繰り返しであった。ある意味デジャヴュである。

 結局のところ、この期待はずれの『トラップ式パッチンガム』にみごと引っ掛かったのは、このガムを購入した私自身ということになる。

 パッチン。

―2003年1月31日―

←第27話第29話→

   目次      HOME