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―― なぜキンタマは外側についているのか ――

 先だって玄関の掃き掃除をしていた時の話である。私が人目のないことをいいことに童心に帰って手にもったホウキを孫悟空のようにぶんぶんと振り回して遊んでいると、予想していた円運動を逸れたホウキの柄が私の股間を直撃した。幸い勢いがなかったために致命傷には至らなかったが、こういった不慮の事故に陥るたびに「何でキンタマは外っ側についているんだ!」とメガホン片手に叫びたくなる。

 私がこの世に生を受けて24年。一体何度キンタマを打ちつけて苦悶に喘ぎながらあぶら汗を浮かべたことか……数え上げたら両手では足りない。

 物の本によると、陰のう(玉袋のこと)が外にぶら下がっているのには精子や男性ホルモンを分泌する睾丸が体温より低い温度でないと正常に働かないという理由があるからなのだそうだ。

 こういった理由を知ると「なるほどな……」と思うと同時に、もうちょっとなんとかならなかったもんだろうかとも思う。例えばあなたにとって非常に大切なもの――これは携帯できる大切なもの。貯金通帳でも彼女からもらった手紙でも有名人のサインでもなんでもよい――を思い浮かべてもらって、それらを持って外出しなければならなくなった時に、はたしてあなたはその大切なものを股間にぶら下げて街中に繰り出そうと思うだろうか。答えはNOだろう。そんなことをしたら待ち行く人に指をさされるに決まっている。

 しかし、人類の祖先はこの“大切なものを股間にぶら下げる”という選択肢を進化の過程で選択し、われわれ男性はその現実の矢面に立たされているのである。どういった経緯で人類の祖先がその進化を遂げることになったのかは、私には知るべくもない。

 もしも私がDNAにある体の設計図の螺旋を変えることを許されたのであれば、キンタマの位置をもっとうまいこと包括するのになぁ、と真剣に思う。

 私の考えるキンタマの適切な位置は“耳たぶ”である。両耳にひとつずつ、耳たぶを変形させて陰のうを作り、そこへイヤリングのようにキンタマをぶら下げるのである。両の耳たぶにぶら下げておく方がパンツをはく現代人の股間より通気性はいいだろうし、いっぺんに2つのキンタマが危険に晒される確立も少ない。そしてなにより福耳は縁起がいいのである。これは我ながら本当にナイスアイディアだと膝をたたいてしまう。

 しかし、多くのものがそうであるように、理想と現実はうすいカーテンに仕切られて向こうとこちら側に分けられている。キンタマの位置はどうあがいたって変わることはないのだ。

 ここはひとつどうやったらキンタマにとって快適な生活を送らせてやることができるのかを考えた方が建設的である。変化を求めるよりも、自分が変化した方が話は早いのだ(どこかの安っぽいスローガンみたいだな……)。

 まず基本姿勢は腰を落としてがに股にしたい。これは通気性のこともさることながら、のびのびすくすくと育って欲しいという親心をこめてのことである。我が子(キンタマ)を守りたいがあまり足を閉じていたのでは内気な子供になりかねないのです! そして上半身は前傾にし、腕をだらりと垂らして何気に股間を守る。この時、体を横に揺すってやると自然と腕が横に振れ、力むことなく股間をガードすることができる。

キンタマガードの図
図-1 キンタマガードの基本姿勢

 これは遊び盛りの子供が睾丸を痛めないためにも、全国の小中学校で普及させるべきできである。これを御覧の読者の中にPTA役員の方がいらっしゃたら、ぜひ気兼ねなくお子様の通う学校で普及活動をしていただくよう尽力願いたい。

 それにしても上の図を眺めているとなんだか猿人の立ち姿に見えてくるが、なるほど、キンタマが股間にぶら下がっているのもこれで納得である。

―2003年3月31日―

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