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―― 来るべき夏に寄せて ――

 夏だぁ! 海だ! 山だ! 恋愛だぁー!! ――といった観念からほど遠い場所に私の夏は存在する。夏という単語を聞いて目の前に浮かぶ絵といったら、“寝苦しい熱帯夜に汗ばんだ肌を蚊に刺されながら布団の冷たい部分を求めて寝返りをうつ”くらいのもんである。今から100年後の地球はかねてからの温暖化により平均気温が2〜3度上昇すると言われているが、そのことを考えると今から本当に気が滅入る思いである。

 よく夏になると風船が破裂したみたいに喜ぶ人がいるけれど、そういう人達の嗜好というのは実に理解し難いものがある。私の周りにもそういった人間が何人かいて「夏なんだから海に行こうよ!」とか「せっかくの夏なんだから河原でビールでも飲みながらバーベキューでもしよう!」などと誘いをかけてくるのだが、彼、彼女らの言う「夏だから……」という動機が私には今ひとつ合点いかなのである。私は「夏の蒸し暑い中、太陽の下でわざわざ騒ぎたくはない」と考えるのだけれど、彼、彼女らはそういった考えこそが信じられないようである。きっとこういった人達はどっかの秘密結社から、

「君たち。夏の間中はしゃぎまくってくれたら、これをあげよう」

 と飴玉でも貰っているのだろう。

 花火大会で道がやたらと混んだり、タクシーの運転手がワキガ臭かったり、ろくなことがないこの時期だが、私ももういい大人である。仕様もないと嘆くよりも、ここはひとつ私なりの夏の良さを見つけた方が建設的で利口であると言えよう。そんな訳でこのエッセイを書きながら、わざわざ夏が好きになるように努力してみようかと思う。

 まずは現時点で考えられる私にとっての夏の利点を挙げてみる。

  ・女性の肌の露出が上がる
  ・稲川淳二のTVへの露出が上がる
  ・Xboxのキャッシュバックキャンペーン実施


 10分ほど唸ってみたが出てきたのは以上の3つである。

 Xboxのキャッシュバックキャンペーンは今夏限りのものだろうから実質は2つということになる。さらにこの2つを自己分析してみると、その内訳は、

  女性の肌の露出が嬉しい……27%
  稲川淳二の怪談が聴けて嬉しい……67%

 となり、事実上、私が夏を楽しめるか否かは稲川淳二のさじ加減ひとつにかかっている言っても過言ではない。これはもとより頼りない話だ。

 このことからも、私はもっと能動的に夏の楽しさを見つけるべきであることがわかる。

 それじゃ今まで見過ごしてきた夏の良いところは? と頭をひねっても、出てくるのは「洗濯物がよく乾く」くらいで夏の暑苦しさを解消するには至らないものばかりである。それどころか「車に轢かれて左腕を骨折したのはちょうど14年くらい前の夏休みだった」とか「海で溺れているおっさんに浮き輪を貸したら、自分が溺死しかけたのもやはり夏だった」とかろくでもないことばかりが走馬灯のように蘇ってくる。考えれば考えるほど夏から気持ちはどんどんと離れて行く。

 やはり夏はろくでもない季節である。


 人の相性だとか天職だとか、どういった力が働いてそれらが引き合うのかは蒙昧な私には皆目見当もつかないが、夏と私の相性があまりよくないだろうことは、犬は「ワン!」と鳴くもんだというくらいよく分かる。

 そして夏があまり好きではないという人達というのは実に少数で、圧倒的に夏という季節が人々から支持されているのも理解しているつもりである。

 その気持ちにまでは合点いかないけれど。

―2003年7月7日―

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