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―― お金より溜まるポイントカード ――

 近頃はDVDのプレイヤーがお手頃な値段で購入できるようになったが、DVDのソフト自体も相当な安価で手に入る。書店やCDショップにあるDVDコーナーを覗いて見ると、大体2500円前後とお手軽価格である。この前はキューブリックの作品が1500円で売られていたし、今日も今日とて仕事の帰りしなに立ち寄った書店でヒッチコックの作品が期間限定のキャンペーンと称して一律1980円で売られていた。映画のビデオが1本9800円で売られていたバブルな時代を育った私としては、「いい時代になったもんだなぁー」と感慨にふけると同時に財布の紐が緩んで困りものである。

 困るといえば最近はこういった買い物をするたびに必ずと言っていいほど「ポイントカードをお作りいたしましょうか?」と店員から尋ねられるのも困りもののひとつである。

 私は元来、こういったポイントカードやサービス券といった類のものが苦手である。CDでもビリヤードでも商品や場所を提供してもらい、こちらがお金を払った段階で取引は成立している……筈なのにポイントカードを発行してもらい、そこへ判を押す意味が私にはまったくわからない。それでなくとも近頃はどこで何を買ってもポイントカードが発行されるので――たぶん財布の中にあるポイントカードを合計すると、カードの枚数がポイントを上回るのではないか――「ポイントカードを……」と訊かれるたびに、ポイントと一緒にストレスも溜まっていく始末である。多くの消費者に概ね高評だというこのサービスだが、私としては「いつもご利用していただき、ありがとうございます」の挨拶ひとつを貰えた方がどれだけ嬉しいかと思う。

 それにしてもこのポイントカードというのは余程の中毒性があるのか、欲しい人はとことん欲しいようで、この間ふらりと立ち寄ったCDショップで大学生くらいの男が、

「あのですね、これ……この前ここでCDを買ったときにスタンプを押して貰えなかったんですけど。押してください」

 とレジの女性に詰め寄っている場面に出くわした。

「失礼ですが、そのお買い物をされた日のレシートはお持ちでしょうか?」

 店員の質問に男はきっぱり「ない!」と答えた。

 女性は困惑した表情を浮かべると「少々お待ちいただけますか?」とレジの端に居た男性店員に相談を始めた。私はその後ろで自分の番が回ってくるのを、Billy Joelのアルバムを片手にただひたすら待っていた。時間は日曜日の昼下がりである。私の後ろには着々と会計を済ませたいお客が列を成していった。

 暫くして戻ってきた女性は男の訴え通りにカードに「ぽん、ぽん」と判を押すと、こちらの不手際で誠に申し訳ないと頭を下げていた。

 男はカードに押された判を確認すると満足そうに「どう致しましてぇ〜」と店員に釣られて頭を下げて去っていった。語尾の「〜」は鼻から声がぬけて行く感じである。

 この男は本当にこの店でCDを買ったのだろうか?

 なぜCDを購入した時にポイントカードを差し出さなかったのだろうか?

 なぜクレームをつけに来たのに頭を下げて帰って行くのか?

 いろいろな疑問が浮かんでは消えるが、この時の私は「ポイントカードというのは馴染みの店で恥を掻いてまで欲しいものなんだなぁ」と単純に呆れた。

 その後、私は恙無く会計を済ませたのだが、その場の空気の悪さといったらない。


 行く先々の店でポイントカードの作成を勧められるので店側にとって相当使い勝手のいいアイテムなのだろうなぁ――と思っていたこのポイントカードだが一概にそうとも言い切れないようで、個人経営の小さいお店なんかは、売上が減るとはわかっていても大きな店に顧客を取られてはいけないと嫌々ながらポイントカードを発行しているのだという。

 そんなことを考えると、ポイントカードの判を押してもらう度に店の売上を妨げるカウントダウンをしていると言えなくもなく、こちらとしてもいい気がしない。

 得するんだからポイントカードくらい四の五の言わずに貰っとけばいいじゃん! と仰る方もいるだろうが、必要以上に膨れた不恰好な自分の財布を見ると、やはり押し付けがましいサービスとポイントカードは勘弁して欲しいと思うのだ。

―2003年9月5日―

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