よく学生時代は特別だ等と言うけれど、私にとっては中学校生活こそがその特別な時間であった。いい友達にも恵まれたし、くすぐったくなるような恋愛の真似事もした。バンドを組んで文化祭に出演したり、クラスメイトの皆と泊りがけで遊び倒したり、盗んだバイクで走り出した友達が警察に捕まったのを指差して笑ったり……と思い出は尽きない。本当にいい学生生活だった。
あの日もちょうどそんなことを考えていた。15歳の夏の夜。
――それは、中学校生活最後の思い出にと皆で参加した地元での大きな祭りのあと。
祭りの終わりを告げる打ち上げ花火に耳を傾けながら、私はひとり、これまでの中学校生活に思いを馳せながら公衆便所で用を足していた。楽しかった学生生活を振り返るにはちょっと似つかわしくない場所だが、皆の輪を離れた場所でひとりになった途端にこれまでの学生生活が頭の中に蘇ってきたのだ。思い起こしても浮かんでくるのは腹を抱えながら友達と笑っていた思い出ばかり。本当に楽しい時間だった。
いつしか夜空にこだます花火の音は、私の中学校生活のフィナーレを飾る音色へと姿を変えていた。
……ありがとう皆。そして……さようなら。
用を足しながらそんな感慨に耽っていると、隣からなにやら得も言われぬ視線を感じた。
私が何事かと横を見ると、なんか和田勉に似たおっさんが私のチンポを食い入るように見つめながら自分のチンポを白いブリーフの上から「オイッチ、ニー、イッチ、ニー! 右、左、右、左!」といった感じで一心に両手で揉み込んでいる。「お前はあれか、唐揚げの素を鶏肉にまぶしている香田晋か」、そんな突っ込みが私の脳裏をよぎった。
もうね、ぶち壊し。自分の青春の一幕ぶち壊し。
「お前ふざけんなよ! おい、コラ!」
とか凄んでみるも和田勉が怯む気配はない。それどころか不快な態度を示した私に喜びを隠し切れない御様子でなにやらニヤニヤしている。その笑顔を見ていると、もう、腹が立つというよりは脱力した。そんな私を尻目に和田勉のチンポはギンギンに起ちっぱなし。頼むから死んでくれ。
もういい。こんなアホの相手なんかしていられない、と思いながら、
「お前さ、邪魔だからどっか行ってくんない? ほれ。その後ろのとこでもぶら下がってろ。アホぅ!」
と私が指示を送ると、和田勉は喜び勇んで大便の仕切り板にぶら下がった。その姿はさながら初めてのおもちゃを手にした幼子のようだ。おっさんもチンポもごきげんである。
苦笑いを浮かべながらその姿を眺めていたら、公衆便所に入ってきたお兄さんが「わっ! ご、ごめんなさい!」とか慌てて逃げ出して行った。
一体あのお兄さんは私達二人の姿を見てどのような誤解をしたのだろうか。今となっては知る術もない。
「ウヘヘヘヘヘ……」
純白のブリーフをちらつかせながら愉しげに仕切り板にぶら下がる和田勉似のおっさんを見ながら、私は確実に大人の階段を二段飛ばしで上ったのだということを実感した。
……ありがとうおっさん。そして……死んでくれ。
かようにして学生時代というのは特別なので、この春から新しい学生生活を始めた皆さんも大いに楽しめばいいと思います。
―2004年4月19日―