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―― クリスマスの予定 ――

 私が2005年のクリスマスを独りで迎えることは昨年のクリスマスから予感していたことなのだが、案の定、今年のクリスマスも例年通りにっちもさっちも行かない状態である。今年は土日にかけてのクリスマスということでお日柄もよく、私はその2日間を電磁気学の勉強に充てようかと思っている。やはり、女の子よりもマクスウェル方程式である。ただ、 女の子<電磁気学 ではなくて、 暇<電磁気学 という現実がアレなのだが。

 しかし、子供の頃のクリスマスに対するイメージはどこに行ってしまったのだろうか。サンタさんが困らないようにと、寝る前に窓の鍵をこっそり外してから布団に潜り込んでいたあの時の気持ち。昔のクリスマスに対するイメージは「サンタクロースが白い袋を担ぎ、赤鼻のトナカイに乗りやって来る」だったのだが、今や「男が女の上に乗っかり、玉袋から白い御玉杓子がこんばんは」に上書きされてしまった。

 ああ、クリスマスなんてろくなもんじゃない。


 ――そんなことをイトーヨーカドーのエスカレーター横のベンチに座りながら考えていたら、「ブッ!」という突然の破裂音で我に返った。何事かと辺りを見回すと、どうやら隣に座っていた女の子が立ち上がった拍子に放屁したようで、すまなそうな素振りもなく、すました顔でその場を去って行くところだった。

 もし私が彼女の彼氏であったならば、その後の対応に右往左往しているところだが、そこは独り身の気楽さである。というか、クリスマス前の独り身に知らない女から屁をかまされるとは、なんて素敵なプレゼントなのだろう。

「まてよ……」

 そこで、ふと私の頭にある考えが浮かんだ。彼女は本当に立ち上がった拍子に屁をこいてしまったのだろうか?

 こうは考えられないだろうか。


  屁の推進力で立ち上がった


 彼女にとって立ち上がるとは、屁の力を借りて体を上へと持ち上げることではないのだろうか? だから私に屁をかましておきながら、詫び入ることなく立ち去って行ったのである。だって、彼女にとってそれは立ち上がる際に必要な極々普通の行為なのだから。


 それからも私は暫くベンチに座り込んでそんなことを、彼女のことを考えていた。「立ち上がった拍子で屁をこいたのか、屁の力で立ち上がったのか……」。鶏が先か、卵が先か……。

 というか、私はなぜこんなにも彼女のことを考えているのだろう? 屈折しているとはいえ、これは恋だろうか。屁が運んできた恋。

 しかし、それは決して叶わぬ恋。なぜならば、私のクリスマスの予定は 女の子<電磁気学 だからである。

 そう、 暇<電磁気学 だからではないのだ。

―2005年12月23日―

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