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―― 同郷とか同窓について ――

 夕飯を食べ終え、お腹をさすりながら「もし神様が僕に力をくれたら、今すぐにでも世界を平和にしてあげられるのに……」と泣きながら夜空へチャネリングしていると、それを遮るように家のチャイムが鳴った。

 玄関を開けると、そこにはニタニタとにやけた顔のオッサンが二人連れで立っていた。

 オッサンは某党に属している議員で、本日は自分の後援会に入ってもらう為にやってきたのだという。

 「めんどうくせぇなぁ」と思っていると、オッサンは不意に私の出身校の名前を持ち出した。どうやらこのオッサンは私と同窓らしく、それを糸口に私の気を引こうと出身校の話を切り出したのであった――のだが、そんなことは私がこの人を後援する理由にはなり得ないので、変わらずに鈍い反応をしていると、見込みがないと判断したのか「それでは」と早々に退散していった。

 自身の政策などは一切話さず、「同じ学校の出で親近感あるでしょ? 今すぐ後援会に入ってくださいよ。入らないんですか? それじゃ」なんて、いくらなんでもそりゃないだろうと思う。このおっさんの政策やら目指すものを話してもらえれば、こっちだってそれを踏まえて後援会に入るか入るまいかを真剣に悩むところだが、同じ出身だから票くれなんて、よくもまぁ……という感じである。 さすがは政策を一切謳わなくても知事になれる土地柄だ。

 ちょっと前、私の出身校が甲子園に出場した際もこんなようなことはあった。

 あなたの出身校がこの度、めでたく甲子園出場となりました。つきましては甲子園に大応援団を送るべく、皆様へ寄付のお願いを……――みたいな感じである。

 こんなのは出身校うんぬん関係なく、その郷土の高校野球好きが持ち寄って勝手にやっていればいいだろうと常々思っていた私は、鐚一文寄付しなかった。同じ出身校だから金出せという宣伝文句がどうしても合点いかなかったのである。

 これがまかり通るなら、私は同級生の皆に、

前略

 僕は幼い頃から、一度でいいから口いっぱいにガムを頬張ってみたいと夢見てきました。
 そして、時は熟しました。今こそ幼い頃の夢を実現する時だ! そう天啓があったような気がしないでもない今日この頃です。
 つきましては皆様からこの計画を実行するにあたり、できるだけ多くの応援を頂きたく、お手紙差し上げた次第であります。
 ここは同窓のよしみでガムの代金をぜひ下の口座へ。ひとつ皆様、平に宜しくお願い致します。

草々

 という手紙を BON-BON BLANCO の曲に乗せて配り歩きたい。

 当人の好きで追いかけている目標に同じ出身だから金を出せという理屈が通るなら、これだって問題ないだろう。

 甲子園と口いっぱいにガムを頬張るのでは夢の価値が違うと言われたって、高校野球に興味がまるきりない人間には口いっぱいガムを頬張る方が甲子園出場より嬉しいし、甲子園に応援団を送るために寄付するくらいなら、そこいらに置いある募金箱へ金を突っ込んで救援物資を送ってもらった方が遥かに有益である。

 そりゃ、学校に教材を充実させる為の寄付とかなら話は別だけど、甲子園へ応援しに行くという道楽にいちいち付き合っていられるか。


 しかし、この同じ出身だからといううやむやな理由で話を進めようというのは一体なんなのだろうか? こういうのは、ある日、大して仲も良くなかった同級生がいきなり電話をかけてきて、馴れ馴れしく話しながら怪しい壷を売りつけようとする手口に似た気持ち悪さがある。

 あるいは私の頭が固いがゆえに、こういった道理みたいなもんが理解できないだけなのだろうか。これは複雑な社会における人間関係を円滑にする潤滑油みたいなもので、いちいち目くじらを立てるような問題ではないのかもしれない。

 要は、私が幼くて蒙昧なだけなのではないか。

 それならば、今度からは私もそういった頼みを「同郷、同窓のよしみで勘弁してください」――と断らせてもらうことにしよ。

―2007年2月28日―

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