二次性徴

 淡水魚には、繁殖期を迎えると体色が著しく変化するものが多く、その体色を婚姻色といいます。

 シナイモツゴでは、婚姻色はオスに顕著に現れます。
 産卵期のオスは、鱗の外側の縁の黒さが増すので、体に黒い網を被せたようになって、体側の縦縞は見えなくなります。
 さらに、頭部や各鰭も黒くなるので、全身が紫がかった黒い感じになります(写真4)。


 写真4・婚姻色が現れ始めたシナイモツゴ♂


 このオスが黒くなるという婚姻色は、モツゴ類に共通の特徴ですが、シナイモツゴとウシモツゴは銀色の光沢が少ない分、婚姻色の黒さが濃く感じられて、まさに「真っ黒」に見えます。  また、オスは一般に大型で、尻鰭の縁取りが滑らかで、口の周りには「追い星」と呼ばれる白い小さな突起が現れます。

 一方、成熟したメスは、体色がやや黄色みを帯び、尻鰭の縁取りの一部(第2と第3柔条の間)に僅かな歪みがあります。


分布
 シナイモツゴは、かつて日本海側では信濃川水系、太平洋側では利根川・江戸川水系を南限とする、関東・中部以北の本州(関東・信越・東北地方)に広く分布していました。
 しかし、第二次世界大戦前後から分布域は減り続け、関東地方では1940年代には既に絶滅あるいは絶滅寸前状態だったと報告されています。

 関東地方での状況は、以下のとおりです。

・栃木県…1962年に北部の池で生息が確認されましたが、その後の報告はありません。

・群馬県…館林市城沼での生息が確認されていましたが、1942年頃に絶滅したと考えられています。
・埼玉県…現・三郷市水元の小合溜と大場川一帯で、戦前に採集された記録がありますが、現在では絶滅したと考えられています。

・東京都…戦前は葛飾区小合町の溜め池に多数生息していましたが、現在では絶滅したと考えられています。

・神奈川県…川崎市内の溜め池や横浜市権田池に生息していた可能性があるとのことですが、情報不足のため詳細は不明とされています。

・千葉県、茨城県…各県版レッドデータブックへの記載すらありません。

 極めて一部の日本産淡水魚愛好家の間では、関東地方の某所でシナイモツゴが生息していることが知られているらしいのですが、不確かな情報で詳細は不明です。

 現在では、東北6県と信越2県の、それも極めて限られた場所でしか生息が確認されていません。
 北海道の一部にも分布していますが、それらは本州からの移植によるものです。


 東北地方、北海道での分布状況は、以下のとおりです。


・宮城県…シナイモツゴは、1916年に宮城県鹿島台町(現・大崎市鹿島台)他3町にまたがる品井沼で採集された標本に基づいて、1930年に新種として初めて記載されました。名前の「シナイ」は「品井」に由来しているのです。その後、1935年以降は正式な捕獲記録がなく、また品井沼そのものも干拓事業によって消滅してしまったために、長らく宮城県では絶滅したものと思われていましたが、1993年に鹿島台町での生息が再確認されました。現在は大崎市の天然記念物に指定されています。

・福島県…県内数カ所でしか生息が確認されていません。その内の一つ相馬市大坪の溜め池では、2011年の東日本大震災で損傷した部分を改修するために、2012年10月から始まった復旧工事によって絶滅した恐れがあります。

・岩手県…紫波町、花巻市から東和町以南の数カ所のため池で、局所的に生息が確認されています。平泉中尊寺の池からも見つかっています。

・青森県…1993年に青森市羽白の又八沼で生息が確認されて、青森市がシナイモツゴの分布北限となりました。そのため、2000年に「又八沼に生息するシナイモツゴ」として、青森市の天然記念物に指定されました。十和田市にも、又八沼に由来する野生化個体群が存在します。
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