・山形県…最上地方を中心として、酒田市・朝日町・山辺町・鶴岡市・新庄市・寒河江市・大江町での生息が報告されています。山形県の個体群には、ある程度の割合で「透明鱗の個体」が含まれていて(写真5)、観賞魚として流通することがあります。


 

 写真5・山形県産シナイモツゴの透明鱗個体


・秋田県…干拓前の八郎潟や雄物川水系に広く分布していましたが、現在では県北部を中心とした数カ所の溜め池に生息しています。横手市・男鹿市・由利本荘市・秋田市・大館市・にほか市・能代市・三種町・五城目町・八峰町・森吉町からの報告があります。

・北海道…十勝川水系・大沼湖沼群・函館近郊で生息が確認されていますが、近年は減少しています。これらは1950年代に本州からコイ・フナ等を移植した際に、混入して移入され定着したと考えられています。


 信越地方での分布状況は、以下のとおりです。


・新潟県…1940年代には平野部の信濃川水系からの報告もありましたが、現在では十日町市 (旧・十日町市・中魚沼郡中里村・東頸城郡松之山町)・小千谷市・中魚沼郡津南町・南魚沼市(旧・南魚沼郡六日町) 等の魚沼地方や上越市の池沼でのみ生息が確認されています。

・長野県…個人的に親交があった故・清水義雄さんが、1996年に長野市篠ノ井の溜め池での生息を報告されたのと、私も同地域の細流で生息しているのを1984年に発見し、1998年に公表したのがきっかけとなって、長野市での生息が知られるようになりました。長野市篠ノ井地域の溜め池群の他には、上田市真田町・栄村切欠堤での生息が確認されています。

 中でも長野市での生息地は、シナイモツゴの「分布最西端」ということになる訳です。
 これらの全国の分布域では、かつては平野部の河川下流域や湖沼等の開放的な水域にも広く生息していたのが、現在では絶滅もしくは山間部の溜め池や沼沢等の閉鎖的な水域に局所的に残存しているにすぎないという点で、減少の方向性がおおまかに共通しています。

 一方では、調査の精度が向上したことと、シナイモツゴの知名度が、少しずつではありますが、高くなってきたことによって、生息場所の確認数は年々増加しています。
 もしかしたら、あなたの町の小さな池にシナイモツゴが未だ人知れずに生き残っているかもしれません。

 なお、本文中の地名は、それぞれの地域でシナイモツゴの生息が確認され報告された後に、市町村合併が行われている場合は、合併後の最新の名称に全て書き直してあります。
 もしくは、現・○○市、旧・●●村等で示してあります。


生態

 かつて北日本に広く分布していた頃に、シナイモツゴがどのようなところに生息していたのか、今となっては知る由もありませんが、私が長野市内にもシナイモツゴが生息していることを確認した1980年代には、市内での生息地は、篠ノ井地区の山の斜面に点在する農業用の溜め池とその水系に限られていました。

 ヒシ等の水草が水面を覆い尽くすような泥深い溜め池(写真6)や、それらを水源とする用水路の水が流入する小川の、アシ等が茂っているような岸近くの深みで数多く見られました。

 
 写真6・長野市内のシナイモツゴ生息地

 しかし、残念ながら、その後それらの殆どの溜め池では、一部の心ない人たちが放流したブルーギル Lepomis macrochirus によって食べ尽くされてしまったり、小川は護岸工事によってコンクリート化されてしまって、現在この地区でのシナイモツゴは絶滅の危機に瀕しています。
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