お茶の間 けいざい学 <2>
 交換経済の誕生──「互いの利益」認識から
 

 石器時代に最初に経済学を実行した人のことを考えてみましょう。 戸隠でシカを捕って平和に暮らしていた家族がいたとします。ある冬に大雪で、シカがまったく捕れない事が起きました。子供がおなかをすかせて泣き叫ぶ姿に、強い危機感を持ったお父さんは、山をさまよううちに直江津の海に出ました。浜には冬に向かい大量に押し寄せたブリの群れが捕獲されて積み上がっています。

 最初のころは夜の闇に紛れて失敬したり、こん棒を振り回して奪ったりしたかもしれませんが、これを繰り返しているうちにだんだん互いが顔見知りになります。そうなると、平和的にブリを手に入れた方が効率が良いと気付いたお父さんが恐る恐る声を掛けます。
 「あのー、このブリ1本頂けませんか。子供が飢えて死にそうなのです」
 海の民が答えます。
 「いいよ。どうせ食べ切れなくて腐らせてしまうのだから。その代わり、お前の持っているシカの皮のポシェットをおれにくれ」
 交換経済の誕生です。
 同じことは海がしけて、まったく魚が捕れない海の家族にも起きます。そのとき、今度は直江津の家族が戸隠に来て言います。「何かくれ」。山の民が答えます。「今日はシカが捕れ過ぎた。どうせ腐らせてしまうので、お前の首に掛けている貝のネックレスをくれるなら、シカを1頭あげるよ」
 この交換経済の発見によって、海の民と山の民は「捕れ過ぎたときには腐らせてしまい、捕れなかったときには家族が飢えて死ぬ」というリスクを互いに避けることができるようになりました。交換の発見が両方の家族の命を救うことになったのです。
 お互い利益になるとの認識から交換経済は発展を始めたのです。
(2002年9月14日「長野市民新聞」)

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