お茶の間 けいざい学 <3>
 交換経済の利点──余った物 他人に融通
 

 石器時代にそれぞれの地域で、それぞれの生活を営んでいた家族が、ほかの地域の家族と物々交換を行うことで、両方の家族が「あるときには捕れ過ぎた獲物を腐らせてしまうのに、獲物が捕れないときは家族全員が飢えて死ぬ」というリスクを回避できると知りました。

 交換経済の発見は、冷蔵庫のない時代にも相互の食料を融通することが、そのまま「食料を保存することになる」という発見を含んでいました。
 このことは善光寺平で果物や芋を採取している家族との間にも成立して、戸隠の民はイノシシの肉を善光寺平の芋と交換したかもしれません。
 そうなると、3地域の家族は互いに食料がとれ過ぎた場合には他地域の家族に融通しておいて、逆に、とれなくて困ったときには食料を分けてもらおうと考えるようになります。つまり、食べ物がなくて飢えたときにのみ、食料を求めてほかの生活エリアに出掛けていたものが、獲物が捕れ過ぎたときにも「これ要らない?」とほかの地域に出掛けるようになります。
 経済活動の誕生です。
 余った物を他人に融通しておくことが、飢えたときの保険になると考え、積極的に余った物を融通しようとするわけですから、この考え方は、表現の言葉を持たないだけで、実際は「流通市場の誕生」や「保険業務の誕生」と同じことです。
 実はこの交換行為の成立には、食料を保管するメリットのほかに、いまひとつ重大なメリットが隠されていました。
 石器時代の民はこのメリットもすぐに発見しました。
 それは次回にお話ししたいと思います。
(2002年9月21日「長野市民新聞」)

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