お茶の間 けいざい学 <9>
 商業の誕生──商品を市場に紹介
 

 市場がだんだん発展してきますと、珍しい商品を探し歩いて、市場に持ち込むことを仕事と考える人が出てきます。
 これまでの8回の話では、自分で採取するか栽培するか、自分で製作するかした人が余分になった物を商品として、自分自身で市場に持ち込み、 欲しい物と交換していることを前提として、話をしてきました。
 ところが、財の数と量が膨大になるに従って、自分は何も作らなくても、市場で喜ばれる商品を探し出して運び込んだり、採ったり作ったりして余った商品を市場に持って行けない人々の代わりに運ぶ人が出てきます。はじめはアルバイトのつもりで始めたのでしょうが、だんだん忙しくなるに従って、毎日、市場の商品を運んだり、市場に新しい商品を紹介することが仕事になってしま いました。

 特に、これらの人の中には遠い安曇野からワサビを仕入てくる人も出ます。ところが安曇野で貝のネックレス一本で買ってきたワサビの束が、ここの「北信濃市場」では10本の貝ネックレスと交換できて、10本に増えた貝ネックレスを手にして、喜々として家に帰るような人が出ます。
 当然に翌日は全員が安曇野に殺到し、翌日の市場では同じワサビの束が貝ネックレス五本と交換ということになってしまうかもしれませんが、市場に珍しい商品を紹介することは、働いて何かを作ったり、採取したりすることよりももうかると考える人が生まれました。
商業の誕生です。
 物が余っている所から不足している所へ運ぶ、新しい商品を欲しがっている人に紹介する。これらは立派な商業活動で関連するすべての人々のメリットになる活動なのです。
(2002年11月2日「長野市民新聞」)  
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