お茶の間 けいざい学 <11>
 信用の発生──通貨無くても取引
 

 先週の限界効用逓減(ていげん)の法則の話に関して、時間とともに価値が下がるのは夫婦も同じかというご質問をいただきましたが、夫婦の場合は年齢を重ねるとともに、味わいの深まるものと聞き及びますので、こういう場合は「限界効用逓増」というのではないかと思います。

 さて、市場で繰り返し交換と取引が行われていると、市場参加者は互いに顔見知りになります。
 時には貨幣に相当する貝のネックレスを忘れて来たり、3本しかネックレスを持っていなくても女房の誕生日に貝ネックレス5本と交換されているヒスイの勾玉(まがたま)1個を買って帰りたいという人も出るようになります。この場合、顔見知りだと思わず「明日払うから貸しておいて」というようになります。 
 対価として交換する財が無くても、欲しい商品を手に入れたいと人が考えたときに、借りるという考えが発生します。
 お互いの信用を頼りに後日の決済を前提に取引や交換が行われることを掛け売り、掛け買い、付けで買うなどといいます。
 信用経済の誕生です。
 対価が無くても、相手を信用して一時的な取引に応じることは、経済取引では極めて重要なことで、現代でもほとんどの企業は、信用での取引をしており、売掛金、買掛金という表現で自分の持っている信用(貸勘定)と相手に負っている信用(借勘定)を管理しています。
 交換する財や通貨が無くても取引が行えることは市場の機能をさらに高めました。交換する物が何も無くて、本来なら家族が飢えて死ぬような状況でも、普段の行いから市場参加者に信頼のある人間は付けで食料を購入することで、生き延びるられるようになりました。
(2002年11月16日「長野市民新聞」)        
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