お茶の間 けいざい学 <21>
 兌換のからくり──割合を予測 発行
 

 実は、過去に発行された兌換(だかん)紙幣で、本当にある時に一斉に「金に替えてください」と呈示されて、完全に交換できるものはなかったと言ってよいと思います。
        
 ペイオフや生命保険会社の信用不安説などで金融機関の支払能力などが話題になりますが、コインが生まれた段階で、すでにコインの上には、コインに含まれる金や銀の価値を上回る信用の部分が乗っていました。
 日本で初めて発行された藩札は、1661(寛文元)年の越前福井藩のものといわれますが、このときは幕府からの2万両の正貨を基礎に、4万両の銀札が発行されたといわれています。藩札も初めから半分は水増しされていたのです。
 兌換紙幣も同じことで、兌換に来る人の割合をあらかじめ予測して、その範囲で発行がされていたのが実情なのです。
 前回触れたニクソンショックは、米国の貿易赤字の体質がもう直らないと世界が思ったときに発生ました。将来は貿易赤字が解消して、ドル札を金と交換してもらえるという淡い期待が少しでも世界に存在していたなら、兌換神話は維持されたものと思われます。
 現在でも銀行預金が一斉に払い戻されたら、これに応じられる銀行は世界にありません。
 皆さんから預かった預金は別の人に貸してあるので、手元にある現金は限られており、払えなくて当然なのです。
 金塊が流通していた石器時代の実物経済の論理に突然戻り、「あそこの銀行は支払い能力が低い」「信用格付けがBクラス」などというのは本当は変なのです。長い歴史をかけて、経済はペーパー経済、信用経済の時代に移行してきたのですから。
(2003年2月1日「長野市民新聞」)       
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