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              このシリーズでは、経済は長い歴史の中で、日々の生活を営む一般の人々の工夫と慣習の積み上げの結果として出来上がったもので、学者や天才が考え出したものではありません─と、一貫して申し上げてきました。           
             現在、われわれは政府や中央銀行が発行した紙幣の価値を信じて、このために苦しみ、悩み、嫌なお客様や、頑固な上司に愛想笑いをしたり、言いたいことを我慢したりしています。 
             本当は、1万円札は紙に1万円と印刷されたただの紙で、自己を殺したり、屈辱に耐えたりして、頭を下げるほどの価値の対象ではないのです。 
             差し出されたら、ちり紙と同じに1万円札をむしゃむしゃと食べてしまうヤギの方が正確に紙幣の価値を見抜いているといえるかも知れません。 
             前回申し上げた通り、急拡大する世界貿易と世界市場に対応できる決済手段(通貨)を人類は発見していません。兌換(だかん)紙幣では急拡大する世界経済をカバーする量の通貨を確保できません。そうなると、全員で印刷された紙切れに価値があると信じて経済を回していくしかないのです。 
             不換紙幣の誕生です。 
            現在では、世界中の紙幣が政府が支払いと価値を保証して発行する不換紙幣です。 
            紙幣の価値を裏付けているものは、各国政府がもつ徴税権です。いざとなったら強権によって税金を取り立て、政府が発行した紙幣(手形)を決済するという論理を全員が信じることにして市場を回しているのです。 
             何と言おうと、今のところ無限に印刷できる不換紙幣しか、拡大する世界経済をカバーできる決済手段・通貨を人類は持っていないのです。何の価値もない紙だからこそ増刷できるともいえます。 
            (2003年2月8日「長野市民新聞」)       
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