お茶の間 けいざい学 <36>
 食料安保──飢え救う市場機能
 

 「芋が昨日の市場で高値が付いたので、わたしも芋を明日の市場で売ろう」という人が出ることで、市場には、(9)新たな参加を人や商品に促す機能があることが分かります。

 翌日に芋を持って市場に駆け付ける人は、純粋に芋を高く売ってもうけることが動機ですが、ここでもこの動機は、芋がなくて飢えて死にそうな腹ペコ集落の子供たちを救済するために、自分が保存する芋を室から取り出して駆け付ける天使のような行為とまったく変わらなくなります。
 腹ペコ集落が霜の害に見舞われ、子供たちが飢えている事実は、市場の芋が高いことを通して、周りの集落に保存されていた芋を市場に持ち込ませることになりました。
 よく食料自給率や食料安保のことが話題になりますが、飢えから人々を救うのは市場が拡大し、正常に機能していることが最大の対策であると、このことからお分かりいただけると思います。
 もし、世界で食料飢饉(ききん)が起きた場合に最も飢えの危険から遠い人々は、自分では食料を作らず、世界中から食料を輸入している香港やシンガポールの人々であり、逆に最初に飢えで死ぬ人々は食料を作っている農業国の農民たちでしょう。
 農民たちは世界に余っている食料が価格競争を通して、自動的に集まってくる市場機能を周辺に持っていないからです これは仮説ではありません。天保3(1783)年の飢饉のときに、飢えて死んだのは米を耕作していた津軽藩と南部藩の農民であり、江戸や大阪の都市では餓死者はほとんど出ていません。
 津軽と南部では米不足から大阪の米相場が高値を付けると役人が備蓄米を売却してしまい悲劇を大きくしたのです。
(2003年5月17日「長野市民新聞」)        
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