お茶の間 けいざい学 (47)
 複式簿記──汎用性高い大発明

  家計簿は付けてらっしゃいますか。家計簿は単式簿記ですので、銀行預金やローンの残高を瞬時に知ることができません。一方、財産の増減を毎日把握する必要のある企業では、すべて複式簿記が採用されています。

  複式簿記は市場の発明とならんで、人類が集団で生み出した大発明です。
  ドイツの詩人ゲーテは「複式簿記は人類が発明した最も素晴らしいものの一つ」と言いました。
  最古の複式簿記は1340年にイタリアのジェノア市政庁で発祥―といわれますが、いずれにしても、多くの人々の知恵と工夫が積み上げて完成させた世紀の大発明だったのです。
  初めは、北イタリアの貿易商たちの間で貿易に出た船の収益を管理し、出資者に収益を分配するために生まれました。それが、徐々に改良されて、16世紀になると欧州全土に広がり、自由な商業活動を支える最大の技術となりました。
  少なくとも、自由主義経済学や近代経済学を学ぶ人にとって、複式簿記が分からないことは、化学式が分からない科学者や、生理学が分からない生物学者と同じだといえるでしょう。しかし、日本の大学の経済学部では複式簿記を教えないところが多いのです。複式簿記を大学でなく専門学校の科目と考えたのは、明治の為政者の失敗です。たぶん江戸時代の士農工商の影響が残り、商人の学問としてそろばんと同じように考えてしまったのでしょう。
  これまで述べてきたように世界の市場経済が記号化し、電子マネーが地球上を飛び回るようになっても、多数の言語、多数の民族、多様な商慣習を乗り越えて世界経済が共通の原理で動くのは、複式簿記の原理があるからです。いかに汎用性が高い発明であったかの証明でもあります。
(2003年8月2日「長野市民新聞」)         
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