夕焼けのサバンナを帰るヌーの群れは何千年と同じパターンの生活を守っています。雨季や乾季を経験し、ライオンやハイエナに襲われて子を亡くし、蚊に刺されただけで歩けなくなって死んでいった親を見送るなどの経験をするうちに、群れとしてサバンナで生きていくに最適な行動パターンを学習して、群れのルールが出来上がってそれを何千年と守っているのです。
これまでお話ししてきた市場経済も、人々の日常の暮らしの中にある知恵と経験を積み重ねて出来てきたという意味ではよく似ています。
ところが、人間という摩訶(まか)不思議な動物がつくり上げてきた経済社会には、別の厄介な問題が3つ含まれていました。
1つ目は人間は道具を使い、これを限りなく進化させる動物であることです。市場に運ばれてくる荷物も初めは人間の力でしょうが、やがて馬や牛、荷車や馬車、自転車やリヤカー、オートバイや軽トラック、トレーラーに変わります。市場によっては飛行機やタンカー、鉄道貨物などの利用も入ってきたかもしれません。
これらの変化に対応して、市場の規模もルールも慣習も当然に変わります。
人が科学を持ち、道具を進化させる限り、生産の規模や物が運べる範囲が拡大し、過剰な商品が市場にあふれて大不況が発生したり、作り過ぎた製品のはけ口を求めて侵略戦争が起きたりしました。それに従って、市場の構造やルールが変わり、市場は変化しました。
科学技術の進化が経済の構造やルールを変えてしまうのです。(つづく)。
(2003年9月6日「長野市民新聞」)
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