お茶の間 けいざい学 (53)
 人の理念が変える市場──政策や革命を生む

 自然発生的であった市場のルールが変ってしまう理由の2つ目は、知能のある人間には市場を人為的にコントロールしたり、意識的に別のルールに変えてみたい衝動が生まれてしまうことです。

 ごみごみした市場の配置を変えて、真ん中に道を通す。市場の開く時間を一時間早くするなど、いろいろな工夫をする人が生まれ、経済政策という分野を発達させました。この分野からは不況や恐慌への対策を考えたケインズなどの学者が生まれました。これらの考え方によっても、市場は大きな規制を受けてきました。
 3つ目の考え方は、自分の知能を信じ、庶民の知恵がつくりあげた市場よりも、もっと優れたシステムを自分がつくれると考えてしまうことです。
 観念論ではあるのですが、思い切って現在の市場も、そのルールや慣習もすべて否定して、まったく新しいルールの市場を人工的に建設しようとする考え方で、計画経済とか経済革命とか呼ばれ、この分野からはマルクスが生まれました。
 実は「経済」を、市場が自然発生したという観点だけで石器時代からお話しても、目の前に並ぶ大根やキュウリの生産方法が道具や技術の進歩でどう変わったかなどの生産地の様子は見えません。
 また、市場の真ん中に、誰がいつ、どんな理由で大きな道を開けたかも分かりません。
 また、隣村に人工的につくられた競りのない配給所のルールをだれが考え出して、なぜそうしたのかも分かりません。
 自然発生的な市場を人為的にコントロールしようとした人々の歴史と、新しい配給所をつくろうとした人々の歴史も見ないと、私たちが現在生活している経済社会の全体像は見えないのです。
         (2003年9月13日「長野市民新聞」) 
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