お茶の間 けいざい学 (54)
 人の始まり 道具の発見──平原生活に可能性

 われわれ人類の祖先はどうやら樹上生活をしていたようです。
 今でも私たちの体に尾てい骨があり、盲腸があり、土踏まずがあるのは、木に尾を巻き付けて落下を防ぎ、木の葉を食べたときには、盲腸から消化酵素を出し、足で木の枝をつかんでいた名残だそうです。

 木の上で葉を食べたり、木の実を採ったりしていた時代には、人は道具を必要としなかったはずです。
  ところが、わたしたちの祖先が平原に出る時が来ました。たぶん木の上だけで得られる食料には限界があり、食料を求めて人の祖先はサバンナ・平原に下りたのでしょう。
 結果として、人は2本足で歩くようになりました。このことで人は手を使える動物になりました。また直立の姿勢は、背骨が大きく重たい頭脳を垂直に支えることを可能にして、人の頭脳は飛躍的な発達を始めました。
 サバンナにはオオカミやトラがいたでしょうから、鋭い牙やつめを持たない人類は最初に、身を守るために自由に動く手で石や棒を振り回すことを覚えたでしょう。
 道具の発見です。
 道具を発見したことで、人類は平原で生きて行く可能性を大きくしました。
  初めのうちは、木の実を拾ったり、小動物を捕らえたり、鳥の卵を失敬したりしていたのでしょう。堅い木の実を拾ったときには、自由に動く手に石を握り、割って食べることを覚えたようです。
 最近はカラスが、道路にクルミの実を落として自動車に割らせるそうですから、この段階まではカラスでも考えつくことかもしれません。
 ヘビをたたいたり、ウサギを追い回しているうちに、道具は石おのやヤリの道へと、どんどん進みだしました。
         (2003年9月20日「長野市民新聞」) 
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