お茶の間 けいざい学 (56)
 石器の開発──経済と戦争の拡大

 始めは身を守るために、落ちている棒を振り回したり、石を投げたりしていた人類は、次第に棒の先をとがらせて獲物を突いたり、石をたたきつけて作った鋭い割れ口で、獲物の皮をはいだりするようになりました。

 道具製造の開始です。
  「道具を発見すること」と「道具を作ること」はまったく異なる次元の話です。
 チンパンジーは、ストローを使って巣穴の奥のアリを取ったり、はちみつをなめたりしますし、高い棚の上のバナナをとるためにイスを積み上げたりします。
 このように人類以外にも道具を使う生物はいます。
 しかし目的にあわせて道具に加工を加えた生物は、人類以外に地球上にはほとんど存在しないと思われます。道具を作り始めたことで、人類は他の生物と決定的に違う歴史を歩み始めたのです。
 道具の工夫は鋭い石の刃物や矢じりを作り出し、手に入れられる獲物の数を増やしました。やりや石おの、弓の発明は獲物の数を増やし、人類の生産力を増加させていきました。
 同時にそれは他の部族と戦うときの武器としても使われ、飛躍的に相手を殺す力を高めました。
 実は人類が発明した 「道具を作る能力」は生産力や経済力を増大させることに大きく役立った半面、人を殺す道具の能力も飛躍的に拡大してきたのです。
 人が生産力を上げるために発見した、手足の動きを道具によって拡大させる方法は、人が手足を使って人を殺す場合にもまったく同じ効果をもたらしました。
  経済の拡大と戦争の拡大は、まったく同じ盾の両面といえるものでした。
         (2003年10月4日「長野市民新聞」より」) 
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