お茶の間 けいざい学 (57)
 武器の開発──経済成長への源に

 サバンナに下りた人類が身を守るために手にしたこん棒や石は、やがて狩りに使うためのやりや石おの、弓などに変化していきました。

 身を守る道具と、相手を仕留める道具とは当然違います。弓矢は身を守るというより、明らかに逃げる動物を追いかけて殺すための道具です。
  ここで、食料確保という経済的な理由で開発された弓矢が、人を殺すという軍事的な目的に転用されたことは容易に推測がつきます。
 武器の開発です。
太平洋戦争時の日本は、米国の巨大な生産力と物量の前に完敗し、あらためて戦争は経済力であると気付きました。それが戦後の経済成長へのエネルギーとなったのです。
  今でも経済力と軍事力とは切り離せない関係にあります。経済力のない国に軍事力はありません。体力のない人がけんかに弱いのと全く同じことです。
  わたしたちは戦後の経済成長の中で、軍事力とは全く切り離した形で経済を考えてきましたが、世界の国々で経済力と軍事力を切り離して考えている国はほとんどありません。
  国民に腹いっぱい食べさせ、暖かい着物を着させるために経済成長を志向するなどという政治家はほとんどいないのです。経済成長を望む政治の本音は、強い軍事力を持つことです。
  市場で生まれた経済活動は、もともと庶民の暮らしを豊かにすることが目的でした。しかし、技術開発と生産力の増大は、余剰の富を生み、この富を誰が手にするかをめぐって、集団が争う経済を生んでしまいました。
 集団の力関係が変わり、支配と被支配をめぐる争いが激化したのです。
生活を改善するために生まれた道具が武器になり、豊かな経済への思いが争いを生んだのです。
         (2003年10月11日「長野市民新聞」より」) 
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