お茶の間 けいざい学 (58)
 土器の発明──物の煮炊き 可能に

 石器時代のあとを縄文時代と呼ぶのは、遺跡から数多く出る物の中心が、石器から縄文土器に変わったためです。土器がたくさん出るということは、当時の生活の中心に位置する道具であったことを意味します。

 土器の発明です。  
 土器は物を入れる道具ですが、それまでのシカの皮で作った袋や木の皮で編んだ入れ物と明らかに違う点がありました。
 1つ目は、土で作った入れ物を焼けば、堅くて丈夫になることを人類が発見したことです。火を使うと物の「質が変化」することを知りました。
 その後の人類が化学の世界で、コンクリートやナイロンなど数々の新素材をはじめ、薬品、爆薬、毒ガスなどを開発した道への第一歩だったといえます。
 2つ目は、竹のかごや皮のポシェットと違い、土器は火にかけられる入れ物だったことです。
 土器によって人類は、物を煮炊きすることが可能になりました。火の発見と土器の発明がなければ、人類は米を炊いたり、小麦粉を焼いたりする道を発見できません。後で述べる稲作社会も構築できず、今でも他の動物と同じように自然にある動物や植物、木の実や果物などを採取して歩く生活にとどまっていたでしょう。
  土器の発明がなくても、このシリーズの最初にお話ししたように市場は発見され、交換の経済は発達したでしょう。しかし、人が飛行機で空を飛び、自動車が陸上を走り回り、原子力発電でつくる電気が街を照らし、テレビやインターネットの中を情報が飛び交うという社会にはならなかったはずです。
  火の発見、土器の発明、稲作の開始は、当時の人類にとってはささやかな一歩でしたが、その後の人類の歴史を決めた大きな一歩だったのです。
         (2003年10月18日「長野市民新聞」より」) 
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