お茶の間 けいざい学 (61)
 栽培の発見──職人や兵士が誕生

 人類がいつ頃から農業を始めたか考えてみましょう。縄文時代は自然にある動物や木の実を採って食べていた採取の経済と考えられ、栽培の経済は稲作が始まった弥生時代からとされていました。

 しかし、縄文時代の三内丸山遺跡(青森県)で栽培が推測される栗が発見されたことは、稲の栽培より前に、既に人類は植物栽培や家畜の飼育をして、食料の不足に備えていたことが分かります。
 食料を栽培して保存したり、家畜を飼育したりする行動は人類以外にもみられます。リスは冬に備えてドングリを蓄え、モズもカエルやトカゲを木に刺して保存します。
 はちみつはミツバチがたくわえた食料ですし、木の葉を発酵させてキノコを栽培するアリや、アブラムシを飼育して、アブラムシがおしりから出す甘い液を食料にするアリもいます。
 飼育や栽培は人類特有の発見ではないのです。問題は工夫と道具の改良の積み重ねです。多くのシカを柵の中で飼うことや、畑を耕すくわやすきの開発など、人類は自分の発見した飼育方法や栽培方法を改良して、手にするものを急速に拡大する知恵を持っていました。
 栽培経済の開始です。
 逆説のようですが、食料不足から突発的に隣の集落を襲って食料を奪っうような争いは別にして、規律を持った大集団が計画的に他の集団を攻撃する近代の戦争は、農業の改良で食料が増大し、自分は稲を栽培したり、狩りをしないで、一日中、刀やよろいを作る職人が生まれ、戦争専門の兵士が誕生して初めて可能となったものです。
 戦争には武器の製造、燃料の備蓄、食料の確保、兵士の維持などを可能にする経済力の裏づけが絶対に必要なのです。
         (2003年11月8日「長野市民新聞」より」) 
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