お茶の間 けいざい学 (64)
 仕事の役割分担──職業の分化を生む

 稲作をめぐって起こる水争いの調整は、長老や社会の中で自然に人望が集まった村の長(おさ)が行ったのでしょう。

Hoki

 このような役割分担は、くわやすきを作る鍛治(かじ)屋さんや、米蔵を造る大工さん、ござやこもを編む老人、機を織る女性などへ職業が分化していくきっかけとなりました。
 稲作社会での共同作業は難しい問題を生みました。主人を亡くした主婦に、代かきやあぜの泥塗りをさせようとしても体力的に無理でした。自然にその主婦は田の草取りや織物、弁当作りなどを担当するようになったでしょう。
 ところが役割分担は仕事の生産性に対する解釈の差を生み、収穫後の米をどういう割合で分けるかという難しい問題が解決できなくなりました。また、村一番の働き者で、棚田の一番上の田を担当していた権兵衛さんの息子のプー太郎が大変なぐうたらで、田の草取りもしないとなると、初めは親の遺徳で大目に見ていた村の人々も、雑草の種ばかりが流れてくるプー太郎の田を見て、堪忍袋の緒が切れます。
 権兵衛さんの田を取り上げ、水のみ百姓の子のマジ太に栽培させようと言いだす人も出ます。
 共同で働き、収穫物は平等に分けるという発想は人類の歴史には常にあり、この時代から20世紀の共産社会成立まで一貫して流れていました。「人類皆兄弟、世界は一家」の考え方です。
 一方で逆に、良く働くマジ太とぐうたらのプー太郎が同じ量の飯を食うのはおかしいという考え方も常にありました。「働かざる者、食うべからず」という思想で、この考え方も時代を超えて生きており、東西冷戦終結後の21世紀で社会の主流になりつつある考え方といえます。
         (2003年11月29日「長野市民新聞」より」) 
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