お茶の間 けいざい学 (68)
 動力源の進化──産業史に劇的変化

 人が働く代わりに、石炭や石油、火薬などから発生する熱エネルギーを使う方法を発見したことから、人類の歴史は全く違う歩みを始めました。

Hoki

 ローマ時代に地中海を制したのは、船の底で何百人もの奴隷が櫓(ろ)をこぐ船の開発でした。
 動力源を人力に頼る限りは、動ける船の範囲は地中海の中に限られており、世界の大洋を制した鉄の蒸気船が誕生するには、1760年代のジェームス・ワットの蒸気機関の発明が必要でした。
 船を推進させる動力源を人力から、石炭が燃えて出る熱エネルギーに置き換える機械が発明されたとき、世界の海は急速に狭くなったのです。
 毎朝、ひげをそるお父さんには二通りのタイプがあります。カミソリでヒゲをそる人と、電気カミソリでそる人です。
 カミソリ派のひげをそる動力源は人の力ですが、電気カミソリ派の動力源はモーターを動かす人工的な電力です。
 カミソリ派のひげのそり方は電気やモーターが発明される以前の時代からあった方法ですが、電気カミソリ派のそり方は、産業革命がなかったら、この世には存在しなかったといえます。
 これは「自然に存在する人、動物、風、水などの動力ではない人工的動力を利用する機械や武器の開発」という産業革命以降の変化を踏まえたもので、産業史からみたら古代と現代を分けるほどの大きな違いといえます。
 朝にヒゲをそる度にこんな事を考えていたら疲れますけどね。
 道具がいかに進化しても、動力源が進化しない限り、多くの人が太平洋を往復したり、1000台の織機が一度に布を織ったり、40台の車両を機関車が引いたりする時代は生まれませんでした。
         (2003年12月27日「長野市民新聞」より」) 
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