人力に頼る限り、勤勉さで達成できる生産性の向上には限りがあるのです。
一方で、稲の種を飛行機からまき、自動給水管で水量を調節し、収穫期には大型コンバインで稲を刈るアメリカの農家が手にする米の量は、日本のお百姓さんの百倍、千倍の量となるでしょう。
これを可能にした飛行機も自動給水管もコンバインもすべて工業の進化が可能としたものです。
工業の進化による生産性の拡大は、けた違いに大きいのです。千倍、万倍、数十万倍の生産量を実現した発見や発明はめずらしくありません。
同じ原理は武器の開発にも適用され、工業の発展に伴い開発された原爆は、たった一人の人間が投下するだけで数十万人の命を奪うことを可能にしました。
19世紀の英国は大砲を積んだ数隻の蒸気船を持って、数億の民がいたインドと中国を植民地化してしまいました。
日本もたった4隻の黒船を前に200年以上も続いていた鎖国政策を放棄してしまいました。結果はちょんまげを切り、はかまを捨て、刀を持ち歩かない国に十数年で変身してしまったのです。
工業が進化することを象徴する産業革命が引き起こした生産力と軍事力の圧倒的な格差を前にして、千年以上続いた日本の伝統は十数年で崩壊してしまいました。
五千年の歴史を持ち、中華思想を誇る国、中国さえも、産業革命を象徴する数隻の鉄の船の前に、綿菓子のように崩壊してしまったのです。
(2004年1月10日「長野市民新聞」より」)
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