お茶の間 けいざい学 (72)
 産業資本の誕生──過剰 押し付け合い

 このシリーズ前半の50回までは流通市場の話をしてきました。
 市場は「互いに不足している物を交換で補い合う関係」ですから、ここでは価格をめぐるささいなトラブル以外、組織的な紛争が起こる余地はありません。

Hoki

 流通を担う商業資本は自分が商品を流通させている双方の世界が常に平和であることを願います。それが自分が安定的に商売を続けられる基本だからです。
 例外的に紛争がある地に出掛けて、敵味方の双方に武器を売る商人などが生まれますが、これは戦争を前提にした商売で、戦争が終わればなくなってしまう商売です。
 産業革命の発生は物を流通させることではなく、物を製造することで富を蓄積しようとする資本家を生みました。
 産業資本は、一人が2週間かけて織っていた綿布を、1000台の織機が並ぶ工場で1日で織ってしまおうと考えますから、大型の工場をまず建設します。巨大な投資が先にあり、後でこれを回収する商売といえます。
 英国の商業資本がインドに進出していたら綿布とアッサム地方の紅茶だけを交換し、この関係が長く安定的に続くことを願ったでしょう。
 不幸なことに、産業革命後にインドに進出した資本は産業資本でした。巨大な工場投資を回収すべく、過剰な綿布をインドに何としても売り付けようとする資本でした。
 産業資本の誕生で、経済の世界に「互いに過剰な物を押し付け合う関係」が生まれました。
 過剰な綿布を抱えた英国資本は、インドの綿工業を滅ぼすことにエネルギーを集中しました。不足を補い合っていた市場の経済の外に、過剰を押しつけ合う世界が誕生したのです 。
             (2004年1月31日「長野市民新聞」より」) 
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