大切な事は価値の実体のない紙切れを通貨とし一般に通用させるには、絶対的な信用と、これを紙切れには終わらせないという権力の強い意思が必要だったことです。
通貨発行権は、中央銀行だけが無限に信用を創造できる機能です。この機能は権力そのものです。複数の存在が許されることはありません。
江戸時代に各藩が藩札を発行できたことを見れば、江戸幕府が権力の連合体であったことが分かります。同時に犯罪人の逮捕、判決、刑の執行も各藩が行っていたことを考えると、通貨発行権と裁判権は国家を構成する重要な要素と分かります。
これがなければ独立国とはいえないのです。
その意味で現在進行している欧州の通貨統合は国家を消滅させ、欧州全体を一つの国にしようとする第一歩といえます。市場経済の中で、通貨が生まれ、信用貨幣に進化する中で、通貨発行権を独占する権力が生まれたことは、経済学が自由な市場の原理を説明する学問から、国家を運営する上で必要とされる知識や方法論を研究する学問へと、その役割を変えてきた原因にもなりました。
産業革命の進展とともに国家の論理に従い、権力の維持のために機能するようになった経済学の役割は、流通を媒介する貨幣が国家が発行する貨幣に変わることで、さらに強められたといえます。
今では通貨発行権を独占する中央銀行はどこの国でも権力の中枢、国家を構成する重要な機能の一つとなっています。
(2004年6月12日「長野市民新聞」より」)
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