経済学も権力者の国家運営の方法論、戦争での兵站(へいたん)、平時の財政・税制などを研究するようになってから発展した学問といえます。それは、このシリーズの第30回でふれた労働者など社会の階層にいる人々が社会の矛盾に気が付いて考えだしたマルクス経済学などとは別の体系の経済学です。
特にマルクスが経済学を科学的体系の学問として発表すると、自然に発生した市場経済を良しとしていた人々の側でも「個人の財産私有を認め、原則自由な経済活動を維持して行っても世界の経済はうまく行くのだ」と証明する理論の構築が急がれるようになりました。近代経済学の理論が急速に整備されていきました。
経済学は初めから政治の形態や分配の方法などをめぐって立場と利害、見解や方法論が対立する運命を背負った学問であったといえます。
不換紙幣を流通させる力が国家権力による強制であるように、返還できそうもない量の膨大な日本国債が将来も償還されるだろうと国民が考えている理由も、実は国の持つ強制的な徴税権に裏打ちされているからです。国が権力によって強制的に税金を取り立てて、借金である国債を償還してくれると大部分の国民が信じているのです。
その意味では国債を担保しているのも国の徴税権で、権力そのものといえます。ただ国債や藩札が償還された歴史が極めてまれなことも事実です。
自然発生市場の経済活動を観察することから生まれた経済学はやがて国家運営に参加する学問へと変質していきました。
(2004年6月26日「長野市民新聞」より」)
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