お茶の間 けいざい学 (97)
 ケインズ経済学──恐慌の回復に効果

 経済学は西欧社会の独占ではありません。二宮尊徳の考えた農業経済学も上杉鷹山が腐心した米沢藩の財政改革もすべて経済学でした。金融業で巨大な富みを築いた日野富子や勘合貿易で財をなした足利義満の頭の中にも確固たる経済学があったでしょう。
 しかし、産業革命後の世界では過剰生産による過剰在庫とこれに伴う大不況、多数の失業者の発生が大問題でした。この処方せんとしてマルクス経済学は生まれたといえます。
 一方で、労働者階級が財と権力を独占することに反対し、財の私有と蓄積、自由な競争を可能にする市場原理を維持しながら、大不況と大失業を克服する方法を考える経済学が発達しました。
 巨大なマルクス経済学の誕生と、それに続く多くの共産主義国家の誕生に危機感を抱いた自由主義陣営が理論的な支柱を求めた結果、生まれたのが近代経済学といえます。この代表的な理論がケインズ経済学です。
 ケインズは民間が財布の紐を堅くする不況期には、政府が逆に財布を開き需要を拡大すれば不況が克服でき、失業問題が解決できるとの理論を展開、それまで財政均衡にこだわり不況期に財政支出を減らしていた政府の政策に転換を迫りました。
 この結果は、実際に1929年に始まった世界恐慌の回復に大きな成果を挙げ、マルクス理論とは全く別な角度から、不況と失業を克服する経済理論が誕生することになりました。
 しかし今ではケインズ経済学の効き目は薄れています。サービス化や情報化が進展した社会では、公共投資の波及効果が薄くなっているからです。経済学は時代時代に発生する問題に処方せんを書くことが要請される旬の学問なのです。

 
             (2004年8月7日「長野市民新聞」より」) 
 
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