お茶の間 けいざい学 (98)
 貨幣数量説──中央銀行 安定図る

 人間という不思議な生き物が営む経済生活では、人間の好みが日々変化してしまう面があります。
 経済の変化を追跡して見事な数値式を導き出してみても、数値式の基になる単位の大きさが揺れて変化してしまうのです。
 初めて女性のピンナップ写真を目にした若者は1万円を払っても買いたいと思うでしょうが、通勤途上の週刊誌の中で毎日この手の写真を目にしている中年サラリーマンには何の価値も感じられないのと同じことです。
 初めて余剰生産物の山と大量の失意者の群れを目にした社会で採用されたケインズ政策は、目の覚めるような効果を挙げました。
 しかし一度ケインズ政策が経済の中に組み込まれてしまいますと、人々は政府の恒常的な財政支出拡大と、持続的なインフレの継続を前提にした経済行動を取るようになります。その時点で、ケインズ政策の効き目は減退を始めるのです。
 初めて採用された抗生物質が見事に病気を直しても、しばらくたつと病原菌やウイルスに耐性が生じて効かなくようなものです。
 ケインズ政策が効かなくなった時点で生まれたのが、フリードマンなどが主張した貨幣数量説です。
 この理論は景気対策を財政拡大に依存しないで、中央銀行が貨幣の伸び率を一定に保っていれば、経済は社会に存在する貨幣総量に合った規模にバランス、安定した成長が保てるとの考え方です。
 財政が変に景気に対して働き掛けをしても、それが次の不況の原因になるとの考えは、バブル崩壊後にケインズ理論そのままに財政支出を拡大し、全く動きが取れなくなってしまった日本経済を見れば、当たっているのかもしれません。

 
             (2004年8月14日「長野市民新聞」より」) 
 
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