お茶の間 けいざい学  余話編(2)
 マルクス誕生──貧困救う理論願望

 マルクス経済学が市場の機能を殺してしまい、経済理論としては成立しないことは以前に述べた通りで、今となっては実に子供でも分かる単純な真実です。
 マルクス理論は20世紀の世界の半数近くの人々の心をとらえ、これを真実と考えた数百万、数千万の人々が共産主義革命のために身を投げ出し、死んでいきました。
 時代が変わり、精緻(ちみつ)に書かれたマルクスの資本論を今、読み直してみれば、世界中の多くのインテリが信じ、命を投げだしても良いと考えた経済学の真理とはとても考えられないのです。
 不思議ですね。
 マルクス理論が世界の人々の半数近くに真理と信じられたのは、多分、産業革命後の世界に、人としては考えられないほどに虐げられ、貧困に苦しむ人々が多く誕生していたからでしょう。
 貧困に苦しむ人々と、その悲惨さに目をつぶることができないほど、優しく正義感の強い人々が、この状態を解決してくれる理論が誕生してくることをひたすら願ったのではないでしょうか。
 救い主の出現を熱望してきた多くの世界宗教のように「信じたい。真理であって欲しい」との大衆の渇望に支えられて、マルクス経済学は20世紀の真理となったのではないでしょうか。
 その意味では多くの宗教の経典が、論理的、科学的にはまったく不自然でも、多くの信者には真理として敬われていることと何ら変わりないかもしれません。
 強盗がただの印刷された紙片でしかない紙幣を奪うために人を殺してしまうのも、紙幣の持つ物語を信じているからで、結局、人が経済を営む世界では、すべて信じることが真理になるものなのかもしれません。

               (2004年9月18日「長野市民新聞」より」) 
 
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